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女の子って壁ドンに胸キュンするそうじゃん クレイジーナンパ大作戦より
2016.9.26

 無題2

 『壁ドン』をご存じだろうか。『ありのままで』や『ダメよ〜ダメダメ』ほど有名ではないが、2014年の流行語のひとつだ。
 一応説明すると、壁際で女が男に迫られるとき、壁にドンと手を突かれるシチュエーションのことをいう。
 壁ドン。「オレの女になれよ」
 壁ドン。「他の男なんて見てんじゃねー」
 みたいに、命令口調で口説かれるのが典型的なパターンだ。世の女どもは、ドラマや漫画なんかでこのシーンを見ると、胸キュンするらしい。こんな強引に口説かれてみたいわ♥ってなことのようだ。ふ〜ん。壁に手を突くだけなら簡単じゃん。タダだし。

 壁ドン系のドラマだと、イケメン上司と新人OLみたいな組み合わせが多いようだが、あいにくオレにはそんな都合のいい相手はいない。ターゲットは新しく探そう。

 日曜、夕方、新宿駅前に向かった。休日のせいもあり、そこかしこの壁際に待ち合わせの女の子が立っている。まさに壁ドンしてくれと言わんばかりの状況だ。待ち合わせってことは、この後どこかへ行ってしまうのだろうけど、連絡先交換くらいはできるでしょう。

 目星を付けた女の子に近付いていく。

「寒いね」

「…そうですね」

「ぼくも待ち合わせなんだけどね」

「…そうなんですか」

 無視ではない。ちょっと照れ笑いしてるし。さっそく一歩近づき、腕をすっと伸ばして壁ドン! 瞬間、彼女がビクっとした。

1

「驚いた顔もかわいいじゃん」

 キマったはずだが、彼女はさっと下を向き、忙しそうにスマホを操作し始める。

「忙しそうじゃん」

「……」

「なあ、連絡先教えてみないか?」

 そそくさと逃げられてしまった。続いて、すぐそばの待ち合わせガールの元へ。

「寒いね」

「あ…はい」

 すかさず壁ドン!

「寒い日は暖まりたいだろ?」

「え…」

「でも待ち合わせしてるなら、連絡先交換だけでもいいと思うぜ」

「ヒッ」

 奇声を発して走り去ってしまった。やはり待ち合わせ女は厳しいようだ。これからデートだ買い物だする前に壁ドンされても困ってしまうのだろう。なので今度はブラブラ歩いてる女に狙いを定めた。おっと、あのミニスカちゃんに行ってみるか。

 

 歩道をとぼとぼ歩いているところを、背後からそっと近づく。

「ちょっとオネーさん、ごめんなさい」

「……」

 無視だ。しかしめげてはいけない。歩道のすぐそばは伊勢丹の壁なのだから。前方に回って、通せんぼをする形で壁ドン!

4

「いい脚してるじゃん」

「やめてください!」

 一蹴されちまった。どいつもこいつもまったく胸キュンしてないみたいだ。失敗したから言うわけではないが、ここまではウォーミングアップのようなものだ。やはり壁ドンは、ある程度打ち解けた関係じゃないと有効じゃないのだろう。

 というわけでお見合いパーティ会場へ。その中に、やけに食い付いてくる女がいた。

「センちゃんって呼んでいいですか?」
 
 39才のヨウコさんだ。

「その帽子取るとどんな感じなんですか?あ、そっちのほうがいいよ。かわいいかわいい」

 三十半ばの男に向かって「かわいい」はどうかと思うが、この食い付きをスルーするのはもったいない。カップルになりましょう。パーティ終了後、一緒に会場を出たところで、彼女が声を弾ませる。

「じゃあ、ゴハンでも行きますか?」

 ノリノリですな。会場近くの居酒屋へ。39才という年齢は、婚活的には9回裏2アウト。さすがに悩みも多いらしい。彼女が語る恋愛論を聞くうちに、あっという間に2時間ほどが経過した。店を出たのは、夜11時だ。さてそろそろ壁ドンといきましょう。駅へ向かって歩いていくと、まもなく長い壁が見えてきた。何とか立ち止まらせたいが…。何気に体をくっつけてグイグイ押して行く。

「えっ、えっ、どうしたの?」

「…寒いんで」

「はははっ。センちゃん、かわいいー」

 腕を絡めてきた。こりゃいいや。ここぞとばかりにグイグイ押していく。彼女は壁のほうへ壁の方へ。と、そこでさっと腕が外された。

「ちょっ、ちょっと。ちょっとセンちゃん、何すんの」

「…いや、冗談冗談」

 やっぱり歩きながら壁に追い込むのは不自然か。

「もう〜センちゃん酔ってるんでしょ?」

「いやそうでもないけど」

「もう明日もあるし、早く帰るよ」

 えっ? 帰る? いやいやこれからでしょ。

「ヨウコさんは、もう帰る感じなの?」

「そりゃあもう帰るよ。センちゃん何線?私は京浜東北だけど」

 スマホで時刻表を見る彼女。何だかマジで帰るつもりだ。ちょっと待てよ。

 ちょうど目の前の大きな柱の前に立った。彼女をぐいっと押して、壁ドン!

6

「帰んなよ!」

 どうだ?
 

 

 

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