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足立区やんちゃエリアを歩く この地域は本当に危険なのか?
2016.6.30

 昔から東京の足立区は、23区内でもっとも治安の悪い土地と言われている。
 この手の話題になると、歌舞伎町や渋谷センター街といった繁華街も必ずその名は挙がるが、そういった特定の街ではなく、区全域で治安の悪さを指摘されるのは足立区だけだ。
 生活保護受給者の比率が23区でトップだの、所得水準が低いだの、それを裏付けるようなデータも一応はある。
 が、それ以上に足立区=アブナイとのイメージを植え付けているのは、たびたびこの地で発生する有名事件のせいだろう。
 綾瀬の女子高生コンクリ詰め殺人事件しかり、足立区首なし殺人事件しかり。今年5月には、小4男児が同級生を殴り殺すという、トンデモ事件まで起きている。暴走族がらみやひったくりの報道が多いのもまた、この地域の特徴だ。
 さて、足立区のナマの空気とはどんなものなのだろう。

 

荒川の向こう側に行ってみな

 6月某日、午前。足立区最大の繁華街、北千住にやってきた。駅を出たすぐのところに、昭和チックな古い飲み屋が点在し、それらの軒先で、顔を赤らめたオッサンどもが黙々と杯を傾けている。いかにも〝らしい〞光景だ。
 まずは情報収集といこう。適当な店に入り、数人で談笑中のオッサン客に話しかけてみる。
「ちょっとお聞きしたいことがあって。足立区ってよく治安が悪いっていうじゃないですか」

「へえ、そうなの?」
 オッサンがとぼけた顔を向ける。
「でもまあ、言われてみれば確かにそうかもねえ。昔からやんちゃなヤツが多いから」
「北千住だと、どの辺りにそういう雰囲気ありますかね」
「北千住? ここは全然そんなのないって、オニーチャン。近ごろは開発が進んで、すっかり小ぎれいになっちゃったから」
 そう、実は俺も来てみてつくづく感じたことだが、この北千住、意外と都会的なのだ。
 オッサンやジーサンが昼間から酒をあおる光景がある一方、おしゃれなカフェやレストランもあちこちにあり、今どきファッションのアカ抜けた若者やパリッとしたサラリーマンも大勢目につくのだ。少なくとも、駅周辺にキナ臭い雰囲気は感じられない。
 隣にいた別のオヤジが口を開く。
「北千住なんか俺に言わせれば足立区の中の世田谷だよ。荒川の向こう側に行ってみな。また雰囲気がガラッと変わるから」
 荒川は足立区南部を横断する大きな河川で、それを超えた北側には、昔ながらの足立区の面影がまだ色濃く残っているという。
「やんちゃなところに行きたいなら、綾瀬とか竹の塚とか西新井とか、あとは南花畑とか、その辺がいいんじゃないの? 俺の知り合いで竹の塚に住んでるやつがいるんだけどさ、なんか昨日会ったときも変なこと言ってたよ」
 その友人曰く、つい最近、路上に停めてあった自転車のサドルが大量に紛失する、ちょっとした事件があったらしい。
「多分、ガキのイタズラだろうけど、あのへんは大人でもタチの悪いのがウロチョロしてっから、何とも言えないな。とにかく、荒川を超えてみればわかるよ」

 

もしや、おれにどけと?

 オッサンのアドバイスを受け、まずは綾瀬に移動した。駅前はうら寂れた商業ビルが建ち並び、ちょっと陰気な印象だ。
 町へ繰り出してみて、気になることがいくつかあった。
 ひとつは女性の喫煙者の多さだ。町中で喫煙所を見つけるたびに一服しにいったのだが、そこに居合わせるスモーカーの8割が、必ず50代の派手なオバハンたちで占められているのだ。どういうことだ?
 こんなの、都心ではまず見かけない光景なんだけど。

足立区本当に危険なのか?
 品のないオッサンたちも至るところで目についた。道沿いのベンチで缶ビールを飲んだり、歩きタバコしたりなんてのはザラ。なかには禁煙マークの目の前でチェーンスモーキングしながら、競馬談義に花を咲かせるオヤジまでいたりして、マナーもへったくれもありゃしない。
 そして、これはやはりというべきか、ヤカラちっくな若者とも頻繁に遭遇した。ヤンキー系もいればオラオラ系もありーのと、あまりにもベタすぎて、かえって笑えてくる。

昼間から青空飲酒する方たち

昼間から青空飲酒する方たち

 

 

 そうこうするうち、町の風景は商店街から住宅街に変わっていた。目の前には信号のない横断歩道があり、何気なくそこを渡っていたら、ムカッとする出来事が。
 パンパーン!
 左手からやってきた軽自動車がけたたましくクラクションを鳴らしてきたのだ。運転手は20代とおぼしき若い女で、何やらイライラした様子でこっちを見ている。え? もしや、おれにどけと? ここって歩行者優先だよね?
 追われるように横断歩道を渡りきると、そのままクルマはマフラーから重低音を出して走り去っていった。くそ、なんて横柄な!
 呆れ果てながら、たまたまそばにいたオッサンに話しかける。
「なんすか、アレ。ちょっとヒドくないですか?」
 しかし、オッサンの顔はなぜかポカーンだ。
「なんで? アンタがトロトロ歩いてっからじゃねえの?」
 なるほど、そう来るのか。何となく足立区の民度ってやつが掴めてきたぞ。

 

「汚いオジサーン あっち行ってよ~」

 午後3時。電車を乗り継ぎ、次なる町、西新井へ。
 駅を降りて眺めた景色は、どこにでもある東京郊外のソレと大差はない。駅前には飲食店エリアの他に大型ショッピングモールもあり、あちこちで幸せそうな家族連れを見かける点は、むしろ平和的ですらある。
 しかし駅前をどんどん離れ、込み入った住宅街の中に入っていくと、そんな印象は一気に消え失せてしまった。
 今にも倒壊しそうなアバラ家がたびたび出現し、そのせいか町全体が昭和の時代にタイムスリップしたかのような雰囲気を醸しだしているのだ。
「コラ、やめろ!」
 ふいに、通りかかった公園から怒声が聞こえてきた。何事かと視線を向ければ、園内のベンチのところで、小汚いジーサンが落ち着きなく立ったり座ったりを繰り返している。周囲に大きなゴミ袋や台車を置いてるあたり、ホームレスのようだ。

足立区本当に危険なのか?11

「どうかしたんですか?」
「いやぁ、あのガキどもがさ…」
 ジーサンが遠くにいる子供2人を指さした。背格好からして小1か小2くらいだろうか。2人はこちらを見ながら、何やらゲラゲラと笑い合っている。
「アイツら、風船を投げつけてきやがって…」
「風船?」
 見ればジーサンの台車の一部が水のようなもので濡れており、地面には色のついたゴム破片が。そうか、あのガキどもが、ジーサンに水風船を投げつけたってのか。
 分別のない子供のことだ。あまり目くじらを立てるのもどうかとは思うが、よりにもよってホームレスを狙うところが悪質というか、末恐ろしいというか。これも足立クオリティってか。
 子供たちはまだふざけ足りない様子で、慎重に距離を保ちつつ、ジーサンを挑発してくる。
「オジサーン、何でゴミなんか持ってるの?」
「汚いオジサーン、変なニオイするからあっち行ってよ〜」
 うなだれるジーサンを見て決心した。よし、ここはひとつ、おれがガツンと叱ってやろう。
 と、そこで思わぬ事態が。ジーサンがおもむろに腰をひねり、手に持っていたゴルフボール大の石をガキどもに投げつけたのだ。腕がブンと唸るほどの全力で。
 しかし、力みすぎて手元が狂ったのか、石はガキどものだいぶ手前でドスンと落ちた。
 ジーサンが目をむいて絶叫する。
「オマエら、首へし折ってやろうか! あっち行け! あっち行けよバカ!」
 ガキも酷いが、このジーサンもたいがいですな。

 

「邪魔だよ、ババア。コラ、どけよ!」

 公園を後にして、さらに町の奥へと進むことしばし、こじんまりとした商店街にたどり着いた。景気が悪いのか、1軒おきに店舗が閉鎖されている案配で、とてつもなく活気がない。
 喫茶店でもないものかと周辺をウロチョロしだした矢先、前方におかしな人物が歩いていることに気づいた。
「邪魔だよ、ババア。コラ、どけよ」
 派手なシャツを着た男が、すれちがうオバサンたちに悪態をついているのだ。狭い歩道のド真ん中を、自分がノシノシ歩いてるにもかかわらず。

足立区本当に危険なのか?8

 ガラ悪いなぁ。今どきこんなわかりやすいキャラ、Vシネマにだって出てないぞ。
 さりげなく追い抜かして顔を確認したところ、サングラスにニット帽とそれなりにいかつい格好をしているが、よく見れば60過ぎのジーサンではないか。
 多少、恐怖心が和らいだので、思い切って話しかけてみることに。
「こんにちは」
 ジーサンがピタッと足を止めた。
「なんか怒ってらっしゃいました? どうしたんですか?」
「え、なに?」
「いや、何か怒ってましたよね」
「いや、ぜんぜん」
 ジーサンは何の話だといわんばかりにキョトンとしている。変だな。たしかに人を罵っていたハズだけど…。
 ジーサンが去ったあと、すぐそばの商店から、店主らしきオバチャンが顔をしかめて出てきた。

「変な人でしょ? 大っ嫌い」
 口ぶりからして事情を知っているようだ。何なんです、あのジーサン。
「いつもああやって威張りちらしてんのよ。女の人と年寄りにだけ」
 あのジーサン、生まれも育ちもこの地域の人間で、昔は相当なやんちゃ者だったらしい。で、先ほどおれが見たように、住人を町中で無用に威嚇していたのだが、ある日、罵倒した男性にこっぴどく痛手を負わされてからというもの、自分より若い男を挑発するのをいっさい止めたのだという。
「でも女の人には相変わらずああいう態度なの。本当、みんなから嫌われてるのよ」
 すごい。すがすがしくなるほどの小悪党だ!

 

こんな夜中に誰が花火を?

 次なる目的地、竹の塚にやってきたころには、午後8時を回っていた。すっかり日の沈んだ駅前は家路につくサラリーマンや中高生がぞろぞろと歩いている。
 この竹の塚というエリアは足立区の中でも特にファンキーな土地とのことだが、その理由は町中を歩いてすぐ見当がついた。
 やたらと団地が多いのだ。一つ団地を見つけても、100メートルも歩けばまた別の団地が出現し、また100メートル進めば…と、とにかく至るところに巨大な団地群が点在している。悪ガキや不良少年が大量生産されるには理想的環境と言えるだろう。
 とはいえ、その後の3時間は、これといったシーンになかなか遭遇できなかった。いつのまにやらシトシトと雨が降り始めたせいで、外を出歩く人が激減したのだ。  それでもめげずに探索を続けていた矢先、突然、遠くの方で物騒な物音が。
 ヒューーーー、パンッ!
 この派手な音。間違いなくロケット花火の音だ。しかし、こんな夜中に誰が花火を?
 首をかしげているとまた、
 ヒューーーー、パンッ!
 花火音は、少し離れた団地の方から聞こえてきた。とりあえず行ってみるか。
 団地裏手の生活道路には1台のタクシーが停まっており、中年の運チャンが何やらあたりをキョロキョロしている。
「あの、何かあったんですか?」
「いやー、いきなり花火を打ち込まれて、頭に来ちゃってさ」
 この場所で乗客を降ろしてから、車内で帳面をつけていたところ、突然、ロケット花火がクルマめがけて飛んできたそうな。幸い、花火はクルマには当たらず、傷つくことはなかったものの、運チャンは悪質なイタズラだと憤る。
「たぶんこの団地からなんだよな。クルマの外に出たとき、敷地のどっかから何人かの笑い声が聞こえたから。くそ、腹立つな〜」

足立区本当に危険なのか?5

 

「……たい、……たい 死にたい……」

 深夜0時過ぎ。一段と雨足が激しくなってきた。通りという通りはシーンと静まり、スナックで飲み終えた酔っぱらい客以外に、人影はほとんど見あたらない。
 とある住宅街の一角を歩いていたとき、ジュース自販機にもたれかかり、傘もささず、スマホをいじっているニーチャン(20代半ばくらい)に遭遇した。見るからに不良っぽい雰囲気ではあるが、特別、何かしてるわけでもないのでそのままやり過ごす。
 およそ1時間後、界隈をぐるっと一周してきたら、自販機ニーチャンが、同じ場所で同じ姿勢のまま、いまだスマホとにらめっこしていた。何なんだ、この人。
 足を止め、あらためて男を観察する。自販機の明かりに照らされたその顔は雨でずぶ濡れになっており、目の下には濃いクマが。ひどくくたびれた印象だ。
 男と目が合った。
 気まずさに耐えられず話しかける。
「あ、こんばんは」
「……」
「あの、傘ないんですか? さっきからずっとここにいますよね? 風邪ひいちゃいますよ」
「……」
 男は声を発しない。ただ、大きく見開いた目でこちらを見つめ、口をパクパクさせている。
 いや、よく聞いたらかすかに何かささやいているぞ。ナニナニ?
「…たい、…たい、死にたい…」
 聞き取れた瞬間、背筋に冷たいものが走った。なんだよ、コイツ。ヤク中か?
 不気味すぎるのでもう退散!

「テメェ、殺すぞ!」「か、勘弁してください」

 竹の塚を離れ、タクシーで最後の目的地、南花畑に向かった。
 この町は延々と住宅街が広がっているだけで、小さな繁華街すらないエリアだが、夜な夜な、界隈の不良少年たちが徘徊し、悪さをしでかしているとのウワサがある。
 しかし時刻はすでに深夜2時を回っている。おまけにこの空模様ではさすがに何も起きないかも…。
 歩けど歩けど目の前には寝静まりかえった家並みが続くばかりで、人はおろか走っているクルマすら1台も見かけない。町は完全な静寂に……ん、何だアレは?
 角を曲がった先に見えたマンション。その1階にあるガレージの周囲に、数人の人だかりが出来ている。近づくと、不穏な怒声と悲鳴、そして人間の体を殴打する鈍い音が交互に聞こえてきた。
「オラァ! オラァ!」
 ドス、バキ!
「うぅぅ、ううっ!」
「わかってんのかよ、ああっ!?」
 ドゴ、ドガ!
「わ、わかってます」
 ガン!
「ううっ!」
 奥で誰かがを暴行を受けているのは間違いない。しかしガレージの入り口付近にはいかにもそのスジの人っぽい男たちが数人、見張り番のように立っており、それが壁となって、なかの様子が確認できない。
 その間もバイオレンスな音が耳に飛び込んでくる。
「マジでテメェ、殺すぞ!」
 ドゴドゴドゴ!
「ううっ! か、勘弁してください。勘弁してくださーい!」
 な、なんだこりゃ。
 もう少し様子を伺いたかったのだが、見張り番のひとりとバッチリ目が合ったため、いったんは素通りすることに。
 そして、また素知らぬ顔でUターンをしたところで、見張り役が声をかけてきた。

「どうしたの? このマンションの人?」
「え、いえ。人の声が聞こえたような気がしたので…。何かあったんですか?」
 男がニコニコと不気味に笑う。
「ん? 別になんでもないよ。用がないなら来ない方がいいと思うけど」
「あ、はい。すいません」
 素直にきびすを返した。背後では、打撲音と悲鳴がいまだ続いていた。

足立区本当に危険なのか?7

 

 

 

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本稿は裏モノJAPAN2016年8月号に掲載された記事をWeb版に再編集したものです。

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