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壮絶!マグロ漁船で過ごした1年間~パチスロで借金を重ねた男が辿り着いた決死の船出
2016.2.23

マグロ漁船

嫁や彼女のいない今しか乗れないだろう

 23の歳にマグロ漁船に乗ることになった。きっかけは借金だ。
 当時のオレはパチスロにハマっており、親や友人から60万、サラ金から120万円ほどの借金があった。そんな折、高校時代の同級生との飲みの席で、ある先輩がマグロ漁船で借金を返済したと耳にし、さっそくその翌週、地元の漁業組合を訪ねたのだった。
 組合のオッサンによれば、マグロ漁船には2種類があるという。日本近海で漁をする
「近海延縄漁」

と、インド洋や大西洋まで行く

「遠洋延縄漁」

の2つだ。
 近海漁は約1カ月で終わるのに対し、遠洋は船によって差はあれど10カ月から1年は海の上にいるらしい。
 給料も段違いで、近海漁は1回の航海で手取り20万円。遠洋マグロ漁は一回の航海で400万円程度だから、月にすればおよそ40 万。共に給料の受け渡しは陸に戻ってきて2週間後、口座に一括で振り込まれるそうだ。船の上では現金が必要ないため、まるまる手に入ることになる。
 最近では若いマグロ漁船乗組員が少ないらしく、どちらも乗ろうと思えば簡単にいけるらしい。
 オレは遠洋漁船を選んだ。色々と不安なところはあるけれど、嫁や彼女のいない今しか乗れないだろうし、まとめて稼ぐことで借金返済どころかたっぷり貯金までできてしまうのだから。

マグロ漁船2

 

日本人は9人 他はインドネシア人

 2009年2月。マグロ漁船に乗りこむべく、K港にやってきた。
 特に持ち物はいらないと聞いていたが、大きいリュックに漫画本20冊ほどと、ゲーム用にスマホやPSP、充電器などを詰め込んである。
 港で組合長と待ち合わせ、すぐに一人のオジサンを紹介された。
「船頭の岩城さんだ。これから世話してもらうんだからちゃんと挨拶しろよ」

浅黒い肌に深いシワがこれでもかと入った、50才過ぎのいかにも漁師ってな風貌の人だ。
 彼に続いて船へ。全長50メートル、幅10メートル。と聞いてもすぐにイメージできないだろうが、テニスコートを縦に2面並べたような大きさと思ってもらえばいい。
 そこに一般(オレと同じ立場)の乗組員(16人)以外に、一等航海士や地上と通信する担当などの「幹部」と呼ばれる人間が乗り込む。
 船内の大まかな作りはこうだ。

・甲板デッキ マグロ漁の主現場
・食堂 船員はここに集まって食事をする。大きなテレビもあり
・調理室 コック長が一人で食事を用意する
・居室 寝る部屋。幹部以外は4人部屋
・トイレ、シャワー室、風呂
・魚艙 獲れたマグロを冷凍保存しておく部屋。マイナス60℃に保たれている。日本に戻ってきたときにここからまとめて水揚げする

 居室に荷物をおろしたところで、カッパ作業着上下と軍手、無地の白Tシャツ30枚が手渡された。仕事中はこれを着るようだ。
 これから出航ということで食堂に集合がかかった。集まった顔ぶれは、日本人乗組員より外国人のほうが格段に多い。全23人のうち、日本人はオレと船頭、幹部を含めて9人のみ。他はすべてインドネシアから来た男たちだ。
 隣に座るインドネシア人がオレの肩を叩く。
「ハジメテ? よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」
 結構ちゃんとした日本語だ。彼は30才で、漁に出るのは3回目だという。
 船はこれから二週間ほどかけて漁場であるインド洋の赤道付近へ向かう。それまで実作業はないようだ。

マグロ漁船3

 

「150kmもあるんだよ。東京静岡間とほとんど同じ」

 まったくやることがなく、寝ても覚めても同じ景色の二週間が過ぎ、ようやく船頭から声がかかった。
「明日の朝から仕事だ。今夜は夜更かししないでちゃんと寝ろよ。朝4時に上(デッキ)に来い」
 いつしか船は赤道付近にまで到着していたらしい。どうりで暑いはずだ。
 翌早朝。船内に「ブー」と仕事の時間を告げるブザー音が鳴った。他の乗組員にならい、リーダーの指示に従ってデッキに一列に並ぶ。
 目の前にはリールに巻かれた「幹縄」と呼ばれる太い縄があり、その幹縄に等間隔で少し細い縄が何本もくくりつけられている。これは枝縄と呼ばれており、その先端の釣り針に小魚をつけて海に投げる『投縄』が朝の仕事だ。
「作業開始!」
 リールから幹縄が吐き出されていく。その脇に並び、見よう見まねで「し」の字形の釣り針にエサをつけていく。リーダーは先頭で、一定の間隔でブイをつけているようだ。
 左手で手のひら大の釣り針を掴んで、右手でイワシやアジ、サバを刺す。これの繰り返しなのだが、かなりのスピードが要求される。目の前にやってきた釣り針が手から離れるまで10秒かからないぐらいだ。もうちょっとゆっくりやってくれよ。
 どうにか遅れないように仕事を続けるが、いっこうに終わる気配はない。いったいいつまで…。
 急に船酔いが襲ってきた。もうノドのところまでゲロがあがってきている。うえ、ヤバイ…。
 ゲロの波をおさえることができずにその場で吐いてしまった。
「こらオマエ、吐くのはいいけど手を止めるな!」
 マジで?
 他の船員もオレを案じる様子もなく、淡淡と仕事を続けている。それにしてもこの作業はいつまで続くのか。

 吐き気をおさえながら隣の日本人に聞いてみた。
「あれ、聞いてない? 幹縄って150kmもあるんだよ。東京静岡間とほとんど同じ距離」
 150キロ! そしてその150キロの間に2200本もの釣り針がついているらしい。

 途方もない数字を聞いてよりいっそうやる気が失せた。吐き気もとまらないし、実際何度も吐いてるし。
 ところで先ほどから、途中で一人が持ち場を抜け、数分で戻ってきたかと思えば、また別の一人が場を離れていくという繰り返しが行われているのだが、あれはなんだ?
 謎はオレにも声がかかったことでようやく解けた。

「朝飯食ってこい。5分な」
 たった5分でメシってか!

 食堂にはお茶漬けが用意されていた。が、ひと口だけで吐きそうになったので、イスに座ってつかの間の休憩をしてからデッキに戻る。
 まるでロボットのように同じ動きを続けてどれくらい経っただろうか。リーダーから「終了」の声が飛んだ。ふらふらしながらベッドに倒れこむ。時刻は午前8時過ぎ。4時間もあんな単調な作業をしてたんだ…。

 船はこれから正午までの3、4時間ここにとどまり、針にマグロがかかるのを待つ。その間は寝てようが何をしてようが構わないとのことだ。

マグロ漁船8

 

深夜0時までにかかったマグロは25本

 いつのまにか正午になっていたみたいで、同部屋の人間に叩き起こされた。チカラが入らないカラダを無理やり動かしてデッキへ。
 午後の仕事は『揚縄』。朝投げた幹縄を引く作業だ。
 電動リールが動き出し、その勢いにあわせてオレたちもゆっくりと縄を引き揚げる。
 …ぐぅ、水の中の縄を引くのってこんなにキツイのか。これに比べたら投縄はまだマシかもしれない。
 エサがついたままの針や、エサだけ食われた針が船に戻ってくる。肝心のマグロの姿はこれっぽっちもない。

 4時間ほど続いたところで、また例の食事タイムだ。船員が1人ずつ交代でデッキを離れ、5分で夕食をとる。オレはなんとかレトルトカレー(こういうお手軽な食い物が多い)を胃袋に流し込んだ。
 縄を引っ張ること5時間。先頭のリーダーが大きな声をあげた。
「かかってる!」

 

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