アンダーグラウンド
相撲部屋からサイフを盗みまくり、両国中を追い回されたオレ…… 炸裂する張り手、高速の突っ張り、そして意識は吹き飛んだ
2016.1.22

 中学時代の万引きが長じ、コソ泥稼業に手を染め早18年。これまで下町の個人商店を中心に、家電屋やスーパーなどに忍び込んでは、人様の金を頂戴してきた。
 しかし、ここ数年の防犯技術の進歩は、セコい泥棒にとって、まことに具合が悪い。窓を叩いただけで警備会社に通報が行っては商売あがったりだ。
 しかし、最近、オレは実に斬新な手口を見つけた。

 

お昼寝タイムなら泥棒天国!?

 今年9月。東京・両国の土産物屋で1つの看板が目にとまった。
『●●●部屋見学自由』
 長年の相撲ファンであるオレだ。多くの部屋が朝の7時から誰でも出入り自由なことは知っていた。ちょっくら見に行ってみっか。
「ごめんください」
 呑気にドアを押すと、玄関口はシーンと静まりかえっている。
「誰かいますかー?」
 上がりかまちをまたいで奥へ向かうも、やはり無人。あれ?休みかな?
 何気に稽古場の棚へ目をやれば、力士のカバンが無造作に並んでいた。
 10分経過。相変わらず室内に動き無し。こりゃ、行くしかない!
 すぐさま中身をまさぐり、財布を3つゲット。猛ダッシュで両国駅へ。
「うおお!ヤリイ!」
 中には、13万8千円が入っていた。

 これは後でわかったのだが、相撲部屋とは、何でも必ず2時からお昼寝雲タイムに入り、その間は見学禁止。そのくせ、入り口は開放しておくのが慣例らしい。早い話が泥棒天国ってワケだ。
 その後1カ月で3軒の相撲部屋へ侵入。オレは危なげなく60万以上の金を手にする。まさに相撲部屋泥棒サイコー!って気分だが、人生はそこまで甘くない。

 

背後から重々しい足音が

 今年11月、いつも通りサイフを持って稽古場を出た瞬間、全身から血の気が引いた。

 目の前に、コンビニ袋を提げた、深海魚にソックリな力士が1人。身長は180センチ台前半。頭が大銀杏でなくチョンマゲなのは幕下だからか。おとなしく寝てろよ〜。
「あ、ゴメンナサイ。みなさんお休み中だったんですね」
「・・・・・・・」
 無言でオレをニラむ深海魚のワキを抜け、小走りに建物の外へ。アイツ、サイフを見てたよなぁ・・・。
〈ドッドッドッドッ〉
 30秒後、早足で駅を目指すオレの背後から、重々しい足音が聞こえてきた。まさか…。
 振り向けば、果たして、深海魚が鬼の形相で後を追いかけてきた。
「ひえええ!」
 慌ててスピードを上げたところで、相撲取りの運動神経に適うワケがない。すでに、深海魚はほんの20メートル後方だ。ヤバ!

 いや、待て。この先を曲がれば、芥川龍之介の文学館があったよな。あの人混みに紛れ込めば…。
 思うが早いか、大通りを裏路地に折れ、心臓も破れんばかりの猛ダッシュ。年寄りの観光客が奇異の目を向けてるけど、構っちゃいられない。

 

間合いを詰めるチョンマゲ部隊

 4分後、敷地内へ転がり込み、文学碑の影に身を隠す。ふ〜、やれやれ。
〈ゴゴゴゴゴゴゴゴ……〉
 人心地がついたのも束の間、地の底から地渡りが鳴り響いた。

 

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