アンダーグラウンド
生活保護不正受給のほほんライフ 寝てて小遣いもらえるなら働くわけないっしょ(後編)
2015.12.22

生活保護不正受給

前編はコチラをクリック!

 

 

トントンか、むしろ得した計算になる

 かくして俺は、なんの迷いもなくバイトを辞めた。

 

 これから毎月、俺が国と区から受け取る額は家賃手当として5万円(都内の場合、上限は5万3千円)に生活費が約8万7千円の、合計14万弱。

 

 フリーター時代と比べて数万の減収になるが、ツライ労働か開放され、税金はすべて免除、都営のバスや地下鉄、水道代、医療費などもすべてタダになったことを考えれば、トントンかむしろ得した計算になる。ステキ過ぎて涙が出そうだ。

 

 翌月初頭、第一回目の支給日が訪れた。待ってましたとばかりに区役所へ向かうと、待合席には受給者らしき連中でごったがえしていた。いかにも貧相な顔触れで、中にはホームレス同然の小汚いオッサンなども紛れている。今日から俺もこいつらの同類かと思うと、ちょいと微妙な気分だ。

 

 やがて自分の番やってきて、窓口に呼び出された。現れたのは例の担当CWだ。浮かれ気分を見透かされないよう、ウツロな表情を作ってお辞儀する。彼と顔を先日の家庭訪問以来だ。

 

「こんにちは、鈴木さん。よかったですね審査が通って」
「ありがとうございます」
「とにかく今は大変でしょうけど、病気の治療だけはちゃんとしてください。私の方でも折をみて、主治医に治療状況を確認しますので、サボっちゃダメですよ」

 

 たとえ受給がスタートした後でも、主治医(例のヤブ)が「病状回復、就労可能」と判断すれば、そこで生活保護は打ち切りだ。ま、あの抜け作ドクターの病院に通ってる限り、そんなことにはならんだろうが。

 

ゼイタクはできないけどカツカツでもない

 現金13万7千円を手にし、妙な感動を覚えた。時給1000円で137時間働かなきゃ手に入らないこの金を、まるでお年玉のようにボンともらえるなんて。しかも今後、毎月決まって。

 

 さて、この金をどう使おう。家賃5万円分を取っておけば、残りは8万7千。30で割れば1日当たり3千円ってとこか。

 

 

 賛沢はできないけどカツカツというほどでもない。とりあえず今日の昼メシは牛井にしとくか。昼時の牛井屋では、スーツ姿のサラリーマンが黙々と箸を動かしていた。あくせく働いても、メシは数百円の牛井かよ。こんなもん、働かなくても食えるのに。ふふ、なんだか勝った気分だ。

 

 ああ、なんて自由なんだろう。メシを食い終わっても何もすべきことがないなんて。とりあえず部屋でゴロゴロして、夜は駅前の中華でも食うか。

 

 怠惰きわまりない生活が始まった。

 

 毎日、昼まで惰眠をむさぼり、テレビをボケッと眺めてから、サンダルをひっかけてふらふらと駅前の立ち食いソバヘ。

 

 腹ごなしの後は、本屋で立ち読みするもよし、公園でぼけ1つとするもよし。ときにはマンガ喫茶3時間コース500円なんてのも悪くない。

 

 働かなくとも腹は減る。夜は中華屋で定食を食うか、弁当を持ち帰るか。そして眠くなるまでテレビかレンタルDVDを眺め続ける。

 

 1日3000円なら、これでお釣りが出る。五体満足でビンビンしてる若者に、国はこんなにのんびりした生活を保障してくれるのだ。

 

ヒマでしょうがないほうが100万倍マシ

 2ヶ月、3ヶ月と、のほほんライフは続いた。のほほんとはいえ飽きるといえば飽きるし、ヒマのつぶし方にも限りがある。

 

 が、それでも、この自由を捨てる気にはさらさらなれなかった。

 

 むしろ、日中、スーツ姿やニッカポッカのニーチャンを見かけるたび、自分の時間を切り売りして金を得ている彼らの姿がマヌケに思えてならなかった。

 

 朝7時に起きて、汗水垂らして働きそのうえ税金まで納めるだって? そんな馬鹿な。ヒマでヒマでしょうかない日々のほうが100万倍マシだって!

 

 もちろん月1回、精神科にだけは必ず訪れた(もちろん診察費は区が負担)。これをサボると、CWから病院に電話が入ったときに、治療の意思がないことがバレてしまう。

 

 医師はどこまでも適当だった。

 

「クスリはちゃんと効いてる?」
「う-ん、どうですかね。まだ幻聴が聞こえるんですけど」
「そう。じゃ今日から別のを試してみましょうか」

 

 診察はたった15分ほどで終わり、処方菱をもらって病院を出るだけ。軽いもんだ。

 

 もう一つ、不正受給者にとつの関門とされているのは、三ヶ月に一度ほど行われる、CWの家庭訪問だ。バイトなどをしていないか、華美な生活をしていないかなどをチェックするのが目的だ。

 

 俺の場合、健康状態に関しては丸っきりウソだが生活自体はつつましいので、訪問されても困りはしない。しかも呆れたことに三ヶ月経とうが半年経とうが訪問は一向になかった。受給者が多すぎて人手が足りてないのだろうか。

 

取っ払いバイトならバレっこなし

 月8万7千円という小遣いは計算して使えば、ちょっとした遊興費ぐらいなら捻出できる額だ。俺の場合は、デリヘルと回転寿司が月イチの楽しみだった。日々ヒマを我慢した自分へのご褒美のようなものか。

 

 ある日プレイ後にデリ嬢が尋ねてきた。

 

「お客さんって何してる人?」
「あ-、俺?無職だよ。生活保護受けてっから」

 

 彼女が笑う。

 

「マジで?生保なのにデリヘル呼んでんの?」
「まあまあ。いいじゃんタマには」
「ぶ。てかさ、アタシも生保なんだけど。超ウケるし」

 

 彼女、俺とまったく同じく、統合失調症と偽って生活保護をウケながら、ちゃっかり内緒でデリ嬢をやっているらしい。デリの給料は日払いの手渡しなので、バレっこないのだと。

 

「振込みは危ないよ。口座を調べられるみたいだし」

 

 客も不正受給者なら、デリヘル嬢も不正受給者。つくづく社会保障の行き届いた国だ。

 

 にしても、いいことを聞いた。実はこのところ8万7千円じゃちょっとキツイとは思っていたのだ。いっちょ、とっばらいのバイトでもやってみっか。

 

 数日後、日雇い労働の口を見つけた俺はとある工事現場へ向かった。日給8千円はもちろん取っ払いだ。

 

 久しぶりの労働は、不思議なものでなかなか楽しかった。体を動かすと頭までシャンとする。

 

 でも同じ現場のニイちゃんたちは憐れでならなかった。この人たち、毎日これをやるんだよな。そいつはどうなのよ。こういう運動は、たま-にだから楽しめるものなのに。

 

安定した毎日は、すでに確保している

 たまの日雇いによって、のほほん度合いはやや下がったものの、臨時収入のおかげで生活はより充実していった。心置きなくマンガ喫茶や缶ビールを楽しめるのはありがたい。

 

 もはやこの生活は手放せない。恋人や結婚はちょっとムリそうだけど、そんなもんに憧れもあんまりないし。昨年末、かつてのバイト仲間から突然、電話があった。

 

「久しぶり。いま仕事やってんの?」
「いや、いま無職だけど」
「実は俺、知り合いの会社に就職してさ」

 

 彼、現在はイベント会社でマネジメント職についてるとかで、結構羽振りがいいらしい。

 

「今業務拡大で社員数を増やそうって話になっててさ。手取り20万でどう?正社員だからボーナスも出るよ」

 

 フリーター時代の俺だったらすぐ飛びついているだろう。労なく夢の正社員になれるなんて。

 

 でも今の俺は、すでに夢の生活を手に入れている。食うにも寝るのにも困らない〝安定した〟毎日はすでに確保しているのだ。

 

 俺は即答した。

 

「いや、ゴメン。せっかくだけど興味ないんだ」

 

 生活保護は麻薬と同じだ。ひとたびハマると、もう二度と抜け出せなくなる。仕事の辛さを知ってる者ならなおさら。

 

人気ランキング
最新刊
  • 雑誌オンライン
  • フジサンマガジン
  • ガチスタプラス