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「だって愛してないんでしょ!」 チャットの人妻狙いは近所に絞れと言いますが、 近けりゃいいってもんでもありませんで
2015.12.15

中年おっさんとPC

 

 男42。俺もくたびれたもんだ。会社じゃ出来の悪い部下に囲まれ、家ではガキにたかられる。2才年下の女房も毎日トドのようにゴロゴロするばかりだ。

 

 こんな俺の唯一の楽しみが、深夜、家族が寝静まった後に自室で励むチャットだ。この暗い趣味に八マったのは昨年の暮れだった。会社のデスクで試しにこっそりやってみたところ、26才の若妻と会話が噛み合い、その週末に激しく体をむさぼり合うことになったのだ。

 

 一家に2台もいらぬと渋る妻を説得し、自前のパソコンを買ったのがそのひと月後。以来、月に1人ほどのぺースで俺はチャット女たちとの逢瀬を楽しんだ。

 

 彼氏のいないファザコン大学生、欲求不満の人妻、愛情に飢えたフリーター。みな、一癖も二癖もある連中だったが、素人女たちの肉体を味わえるのだから賛沢は言えない。いや、すでに40代を超え、腹の出たオヤジがここまで簡単にヤレるなんて夢のような話じゃないか。

 

 そんな1年間に及ぶ経験で俺が得た教訓、それは「近所の女を狙え」に尽きる。

 

 チャットには全国から人間が集まる。遠方の女としゃべったところで、いざアポるのが大変だ。あるときなど、何をトチ狂ったか、はるばる群馬まで高速を飛ばして一発ハメたものだが、効率が悪いったらありゃしない。

 

 やはり地元、千葉の女を狙ってこそ、浮気も気軽に楽しめるというもんだ。

 

世の旦那どもは奥さんを愛しとらん

〈千葉からなのですが、お話しませんか?〉

 

 その日の夜、女房とガキにおやすみを告げて自室にこもった俺は、このメッセージをコピー&ペーストして女性ユーザーに送信しまくっていた。

 

 返事をくれたのは、ハンドルネーム、マユミ。

 

〈あら、私も千葉ですよ〉

 

 自称、36才。結婚7年目の彼女は、ときどき旦那の目を盗んではこうしてチャットを楽しんでいるという。

 

〈今日は旦那さん出張?〉
〈ううん、もう寝たみたい〉
〈寝室、別なんだ?〉
〈うん(泣)〉
〈うちも別だけどね(爆)〉

 

 簡単な自己紹介で始まった会話は、軽口を経て、いつものように色艶を帯び始める。

 

〈最近アッチの方はどう?〉
〈子供ができてから全然ですよ(爆)〉

 

 かつてチャットで知り合った人妻たちと同じ台詞を、マュミは返した。世の旦那どもはよっぽど嫁さんへの愛情に欠けるらしい。そりゃチャットもしたくなるわな。

 

〈へえ、やっぱりマユミさんも浮気は?〉
〈ふふふ、興味はありますよー〉
〈悪い女だなあ(笑)〉
〈そんなぁ(泣)〉

 

 かれこれ1時間はしゃべったろうか、徐々にマユミの心が開く様子が見て取れる。

 

 が、これぐらいの会話はまだまだ即成功に結びつくものではない。人妻は人目を気にするもの。ポイントは、「いかに会う時間を作るか」にかかっている。

 

〈土日はやっぱり家にいなきゃダメなのかな?〉
〈うん、旦那がいるしね〉

 

 うーむ。となれば平日に有給休暇を使うしかないか。でも、もう残り少ないしなあ。気づけばすでに時計の針は深夜2時を回っている。こいつは長丁場になりそうだ。

 

〈ちょっとトイレ休憩!〉

 

 女房とガキを起こさぬよう、ソロリとトイレに立った俺は、まだ見ぬマュミの肢体を思い浮かべながら、のんびりと大便を捻りだした。

 

〈今から5秒後に会いに行くからね!〉

〈お待たせー〉
〈・・・・・・〉
〈ゴメンゴメン、大きいほうだったから(笑)〉
〈・・・・・・〉

 

 やれやれ、このさみしがり屋さんめ。こんなわずかな間をあけるだけで、スネちやうなんて。まったく可愛い子だ。

 

 不測の事態には経験がモノを言う。こちらもわざとキーを打たずに、反応を待つのだ。思いきりさみしくさせて、俺への想いを募らせてやろう。

 

 と、突然マユミが問いかけてきた。

 

〈ねえねえ〉
〈ん?〉
〈干葉のどのあたりに住んでるの?〉

 

 イタズラに広い千葉。ここで嘘をつくと後々会いに行く段になって苦労する。正直に答えておこう。

 

〈幕張だよ〉
〈へえ?〉
〈マユミは?〉
〈私は木更津〉

 

 車で一時間。十分射程距離内か。よし、そろそろ勝負を決めよう。

 

〈じゃあさ、今度食事でもしようか〉

 

 

 誘うオレに、案の定と言うべきか、過去の女も何百回となく聞いて来たお決まりの尋問が画面に現れた。

 

〈でも、奥さんの事愛してるんでしょ?〉

 

 ここで愛妻家を演じてイエスと答えようものなら、十中八九、会う事はできない。女とは不思議なもので、嘘でもいいから「お前だけだ」と答えて欲しいのだ。

 

 ここはきっぱりノーと返答するのが正解。ま、実際そうなのだが。

 

〈愛情なんてどこに行ったものやら(笑)〉

 

 最後に(笑)を付ける事で、冷酷非情なイメージをやわらげるコツなのさ。ダテに一年もチャットやってない。マユミの返事がしばし止んだ。何だ? 逆が正しかったのか? それは違うだろ。

 

 

 よもやログアウトしたのかもと危慎させるほどの長い沈黙は、マユミからの奇想天外な提案で破られた。

 

〈じゃあ今から会おうか?〉
〈え!〉
〈うん、近いし、いいでしよ!〉

 

 いいも悪いも、こんな深夜に車を出すわけにはいかん。エンジン音で女房にバレてまうじゃないか。

 

〈だって愛してないんでしよ!5秒後に行くからね!〉
〈は?〉

 

 5秒後、計ったように部屋のドアが開いた。立っていたのは、紛れもない女房の姿。

 

「何してんのよ、アナタ!」

 

 全身の血液が凍りつく。お、お前がマユミだったのかよ! こんな偶然あっていいのか。でもどうしてバレたんだ。名前も年齢も嘘をついたはず。幕張だけは正直に告げたが…。ん、もしや?

 

 みなさん、チャット中トイレに行くときはご注意を。

 

 

 

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