アンダーグラウンド
メールに返信したのが命取り…… 元エリートサラリーマンがネットで実弾を売りパクられる
2015.12.12

拳銃と弾丸

 不況のあおりを受け、長年勤めていた会社をリストラされたのは、明年のこと。

 

 それまでの私の経歴は実に輝かしいものだった。一流国公立大を卒業後、とある有名商社に就職。アメリカ留学の経験を活かし、世界各国を股にかけるその姿は、まさにエリートサラリーマンそのものだったといえよう。そんな私がこともあろうに人員削減の対象者になるとは。

 

 プライドはズタズタに引き裂かれた。半年後、どうにか小さな化粧品会社に再就職したものの、深く傷ついた心はなかなか癒せない。

 

 しかも年収は商社マン時代の半分以下に落ち、仕事も退屈。気分は滅入る一方だった。

 

 このご時世に裏ビデオなんてまったくもって腐りきってていた私が、とある計画を思いついたのは、それから1年ほどたったころだ。

 

 ネットで裏ビデオや偽ブランド品を売り、一儲けできないだろうか。トバシ携帯、ロリコンビデオ、ドラッグ。ネットの掲示板では、様々な違法物が売買されている。

 

 ならば私も、と考えた。

 

 問題は“商品”の仕入れだが、もちろん当てはあった。バンコクにあるパンティーププラザをご存知だろうか。

 

「バンコクの秋葉原」の異名を持つ街で、裏ビデオや偽ブランド品に限らず、ありとあらゆる違法物が激安で売られている。買い付けにこれ以上適した場所はない。

 

 2カ月後。会社の休暇を利用し、一路タイへ。グッチ、エルメス、ビデオなどを買い込み、その場で日本へ空輸。

 

 正直、もう少し数がほしいところだったが、あまり大量だと税関で怪しまれる。仕入れが終われば、次は架空口座の入手。これは某アングラサイトで売人と接触し、通帳、カード、ハンコの3点セットを1万円で購入した。

 

 準備は整った。あとは掲示板でアピールし、注文を待つだけだ。

 

 果たして、私の目論みは散々にうち破られた。ブランド品は何とかハケたものの、ビデオの方が半分以上も売れ残る始末。利益はブランド品で売り上げがあったぶん、かろうじてトントンという体たらくぶりだ。

 

 が、考えてみれば、当然の結果だったのかもしれない。ネットを使えば、ダダで裏の映像が見られるこのご時世、誰が裏ビデオなんぞ買うというのか。

 

 01年冬。ネットの小遣い稼ぎなどすっかり忘れていたある日、私は自室の押入からトンでもない代物を発見する。

 

 ライフルの実弾入りの箱。これは…。数年前、商社マン時代にアメリカへ出張に行ったときのことだ。ひょんなことから仲良くなった白人青年から友情の証にと、ライフルの弾を手渡された。

 

 当然、そんな物騒なモノを日本に持ち帰るワケにはいかないが、人の好意をムゲにもできない。そこで、弾を厳重に梱包し、船便で日本の自宅へ送付。以来、ずっと押入に隠し持っていたのだ。

 

 すっかり存在を忘れていたが、この予想外の発見でオレは再び考える。

 

 ネットのアングラサイトで売れるんじゃないか。ガンマニアなら、ノドから手が出るほどほしいハズだ。思うが早いか掲示板に書き込んだ。

 

〈実弾売ります。興味のある方は折り返しメールをいただきたい〉

 

 フリーメールのアドレスで返信を待っていると、翌日、レスが1通届いた。

 

〈興味あります。お値段はいかほどでしょう?〉
〈全弾5万円でいかがでしょうか〉

 

 破格の値段と思いきや、逆に相手は高すぎるという。仕方なく1発2500円で計3発をバラ売りすることにした。
ちなみに、ブツは入金確認後、自宅から遠いコンビニから発送した。

 

 こんなチビチビした売り方ではいつまでたってもさばき切れない。焦った私は、翌日、再度掲示板に書き込みを行い、買い手を募った。それが、どんなにバカなことだったとも知らず。

 

 淡い期待も虚しく、客からのレスは一向にない。

 

いや一度〈興味あります〉とだけ書かれたものが届いたのだが、こちらから詳細を伝えても以後連絡は途絶えたままだ。

 

 忘れもしない、01年12月10日、朝7時。Xデーは突然、やって来た。

 

 洗面所で顔を洗い、出社の準備をしていたところ、ピンポーン。来客らしい。誰だ、こんな朝っぱらに。ドアを開けると、

 

「書察ですけど真木隆夫さんですか?なぜ私がここに来たかわかってますね?」

 

 印代と思しきスーツ姿の男が立っていた。瞬時に、終わったと思った。不思議と取り乱すことはなかった。むしろ、これが噂に聞く警察の朝駆けかと感心する余裕があったほどだ。

 

 罪状は火薬類取締法違反だった。取調官によると、私は1回目の掲示板告知のときからマークされていたという。運悪く、銃刀法違反関連の取り締まり強化期間中に、バカな書き込みをしたらしい。

 

 そして、バラ売りした後に、届いた〈興味あります〉というメールは、連中が送った囮メールだった。

 

 これにまんまと返信を出したため、ネットに残るlPアドレスを抜かれ、身元がばれてしまったというワケである。

 

 当初、罰金刑程度で済むと検事から言われていたのだが、結局は懲役6カ月執行猶予3年。

 

 ただ、勤めていた会社から解雇されることはなく、ボーナス減給で済んだのはせめてもの救いだ。ネットの売買には、二度と手を出さないつもりだ。

 

 

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