アンダーグラウンド
戦火を駆けた1人の日本人傭兵 それでもオレは生きねばならなかった(後編)
2015.12.8

20151207-3

 

前編はコチラ

 

敵兵の顔はトマトのように昨裂した

 76年当時、MPLA(アンゴラ解放人民運動)なるソ連の組織が実権を握り、そのずさんな政治が原因で、大量の難民が発生していた。

 

 時代は冷戦の真最中。米国・CIAはソ連に対抗すべく、難民たちに武器を与えUNITA(アンゴラ全面独立民族鳳埋を結成。反政府ゲリラとして、MPLAに戦いを挑ませた。つまりアンゴラでは米ソの代理戦争が繰り広げられていたのだ。

 

 オレは、そのUNITAの重争教官として、都合9回、戦場へ送り込まれることとなる。

 

 一度のミッションにつき、滞在は約1カ月。そのつど、別の部隊(約200人)に教育を施す。ここまでは、かつての任務と大差ない。

 

 がしかし、この地は特別だった。即席軍隊のUNITAは、アメリカ介入の直前まで槍と盾でしか戦ったことのない連中のため、教官の我々が前線に立ち、手本を示さねばならないのだ。

 

 この地、アンゴラで初の戦闘を行った76年――。

 

 ある霧深い日の夕刻。我々教官チーム5人と別人のUNITA兵は、ナミビアとの国境付近サバンナで息を潜めていた。

 

 事前の敵状威力視察で定めた攻撃ポイントは、100メートル先。予定では、もうすぐ敵の偵察隊が通りかかるはずだ。

 

 オレは斥候の現地兵に小さく叫んだ。

 

「おい、あとどれくらいだ」

 

 

「3分です」

 

 霧で濡れた草葉に体を突っ込むと、久しぶりの緊張が襲った。戦場での任務は初体験。立場上、平静を装ってはいるが、内心はキャンプに戻りたくてしかたない。

 

 ほどなく、大佐がタバコを指でもみ消した。

 

「ジミー、オレの後ろを援護しろ」
「イエッサー。援護します」
「怖いか?」
「ノーサー。大丈夫です」
「シッ。来たぞ」

 

 数秒後、副指揮官が、あらかじめ仕掛けておいた地雷の起爆スイッチを押した。

 

ズドォーン。ドドォーン。

 

 重い爆発音を合図に、ライフル、マシンガン、迫撃砲が一斉に火を吹く。M16A-1を握ったオレは、トリガーに指をかけた。

 

「うおおおおおお」

 

 周囲の轟音が耳に届いたのは、ここまでだった。ライフルをブッ放している間は、まったく音が聞こえず、自分が何をしているのかさえわからない。

 

 こちらに銃を構えた男の顔が、トマトのように昨裂した。と同時に、自分のライフルから聞こえた一発の銃にどこか湿り気のある、情けない音だった。

 

 15分後、静まり返った戦場に吐物をぶちまけるオレ背後で、一面場したUNITAの若者が、部族信米の勝利の踊りを踊っていた。敵兵の死体に何度も何度も銃剣を突き刺しながら。

 

 オレは改めて、戦場の徒を痛感した。KILL FOR LIFE。生きるためには殺さなければならないんだ―。

 

ブービートラップで金タマ-つを摘出

 76年、秋。すでに4度目となったアンゴラ任務で、オレはいつものように現地兵を率い、ポイントを目指し行軍だった。

 

 戦闘にもすっかり慣れ、前回の術織挙ではわずか3名のUNITAを率いてバンカー(小型の陣地)を襲撃、敵を皆殺しにしてしまったほどである。

 

 深夜0時過ぎ。一向は隊列を組み、幅晦メートルほどの浅い川を渡っていた。

 

ガチャ。

 

 ブーツの底で、とてつもなく鈍い音が聞こえた。半ば確信を抱きつつ、足下をライターで照らす。やはり…。ブービートラップを踏んづけていた。

 

 トラップは実にやっかいな代物だった。一度でも踏み台の鉄板を押さえると、足を抜いた瞬間、地雷が起爆する仕組みだ。すでに踏みつけてしまった以上、このままでは動けない。

 

 こんな大ピンチにおいても、オレは不思議と冷静だった。事態を知り一斉に逃げ出した現地兵たちを怒鳴りつける。

 

「バッカモーン! 戻ってこい」

 

 次に、靴底をナイフで慎重に切り取る一方、連中に河原の石を集めさせた。足を離すと同時に鉄板の上に置くのだ。

 

 準備は整った。後は一気に足を引き抜く勇気だけ。深呼吸し、大きく気合いを入れる。

 

「おりやーーーー!」

 

 体が後ろに大きく飛び、背中が川面にめり込んだ直後、ボンと爆発音が聞こえた。よし、成功だ。

 

 

 慌てて起きあがりへ体をチェックしてみる。大丈夫…ではなかった。ライトに照らされた川の水がみるみる赤くなっていく。金タマ袋に地雷の破片が突き刺さっていたのだ。

 

 ヘリと飛行機を乗り継ぐこと35時間、血まみれのオレはフロリダの病院で緊急手術を受けた。傷は予想以上にひどく、元通りには治らないという。

 

 金タマの一つを摘出したのは、ケガを負って3日後のことだった。

 

 

 傭兵として最後の仕事、9度目のアンゴラに赴いたのは、81年の夏のことだ。兵隊は1人では戦えない。常に相棒とフォーメーションを組むのかが基本だが、そのキャリアの長さなから軍曹と呼ばれるようになったオレは、上官の役割も兼ね、新米と組む回数が増えていた。初実戦となるケニー(オーストラリア籍)との出御準会いも、そんな理由からだ。

 

 ところが、例によってMPLAを出撃とした矢先、妙なことがおきる。

 

 

 オレが管理している医療用キットから、麻酔用のモルヒネが紛失していたのだ。そして2、3日後、またさらに数本が。

 

 密かに調査を始めたところ、すぐに犯人が明らかとなる。ケニーだ。カサカサに乾いた褐色の皮膚、黄色く濁った眼球。よくよく観察すれば、ヤツが薬物中毒者であることは疑いない。さて、どうしたものか…。

 

 どこの軍隊でも、ジャンキーは絶対排除である。錯乱して奇声なんぞ上げられればたちまち敵に見つかるし、下手をすれば味方に発砲なんて事態も考えられる。

 

 部隊の存亡にかかわる一大事。悪いが、すぐにでもアメリカへ帰ってもらうしかない。

 

 ところが、どうしたことだろう。コトの顛末を大佐に報告し、指示を仰いだところ、話が妙な方向へ動き始める。

 

「バカめ。もう敵の領土に入ってるんだぞ。あんな新米を1人で追い返してみろ。我々まで危ないぞ」

 

 大佐のことばは正しかった。アンゴラの上空にはソ連のスパイ衛星「コスモ』が飛んでいる。土地勘のない人間にジャングルやサバンナをフラフラされれば、いずれ本隊の位置まで発覚し、敵のヘリや戦車に囲まれるという最悪の事態まで招きかねない。

 

「ならばどのように?」

 

 大佐は、今晩ケニーが深夜2時から4時まで歩哨に出ることを確かめると、こう言い残し、暗い面持ちで立ち去った。

 

「深夜3時。歩哨しているヤツの右側に立って、銃を使えないようにしろ。いいか、これは部隊が生き残るために必要なことなんだ。わかるな」
「イエッサー」

 

 生き残るため。返すセリフはなかった。油汗が、穴という穴からどっと吹き出る。2時55分。まったく眠ることのできなかったオレは、寝袋を飛び出し、土嚢の側に立つケニーのもとへ向かう。

 

「よう、やってるか」
「イエッサー」

 

 指示通り、ヤシが拳銃を抜けぬよう、ピタリと横に張り付く。同時に、いざというときのためにライフルの位置を確認。2メートル先の土嚢の脇。オレの位置の方が近い。大丈夫だ。

 

 この間、彼と何を話したかまったく覚えてない。たかがモルヒネごときで殺されねばならない若者の顔を、ただぼんやり見ていただけだ。

 

 

 背後から大佐が現れたのはすぐ直後だった。ケニーの左のこめかみにスッと拳銃を押し当て、黙って引き金を引く。

 

パン。

 

 赤い鮮血と共に、右目が外へ飛び出した。倒れる肢体。地面を流れる血が、月明かりに黒く光る。

 

「よし、戻ってくれ」
「イエッサー」

 

 うつむきながら小さく返事をする。足元に転がる緑のへルメット。拾い上げると、そこには数日前ヤツに伝えたばかりの言葉が、小さな手書き文字で記されていた。

 

KILL FOR LIFE。

 

 その後、オレはZを辞め、日本へ戻った。以来、20年の月日が流れたが、ソイツは今も目の前に現れる。

 

「おい、やってるか」

 

 呼びかけると、軍服姿の若者は笑いながらゆっくり振り向く。その目は、まるで自分が殺されることを知っているかのように、オレを見据える――。

 

 

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