アンダーグラウンド
シャブの調達に走り回り、 射撃場では拳銃の殺傷力を代行質問 私はヤクザ専門ツアーコンダクター
2015.12.2

拳銃

 初めに断っておくが、私は在日韓国人2世だ。

 

 オヤジは韓国・済州島の出身で、戦後だいぶたってから、まだ当時では珍しい韓国旅行専門の代理店(現在はいろんな国のツアー有り)を始めた。

 

 そこで私が働くようになったのは今から10年前。諸事情で、勤めていた警備会社を辞めた直後のことである。

 

 仕事は、経理、航空チケットやホテルの手配、営業、ツアー添乗員など様々。従業員4人の小さな職場のため、1人何役もこなすのは仕方ない。

 

 私が驚いたのは、得意客の大半が極道者だという事実だ。

 

 今も昔も韓国は、ヤクザの海外旅行先として人気が高い。その理由は、日本から近く、女やゴルフが格安で楽しめるというのもさることながら、彼らの出自にも大きく関係がある。

 

 実は、その筋の連中には意外なほど在日関係者が多く、中には頻繁に祖国の親戚縁者に会いに行っている者も珍しくない。

 

 いま思えば、かつて自分自身がヤクザの世界にドップリはまり、さらに仕事柄、日韓両国に広い人脈を持つオヤジの会社が、そういう連中の御用達となっていたのは、ある意味、当然だったのかもしれない。

 

 もっとも、こちとらヤクザとは縁もゆかりもないカタギである。慣れるまでの苦労は半端ではなかった。

 

 チケットに記載する名前を一字間違ったといっては胸ぐらを掴まれ、旅行の日程表を1枚入れ忘れていたと言ってはハリ倒される。一般人が気にしないようなことにも真剣に腹を立てるのだから、もうワケがわからない。

 

 こんなこともあった。

 とある組織の幹部が、組長の誕生日に合わせ、韓国ツアーを申し込んできた。

 

 その幹部、参加者全員にビジネスクラスを用意しろというのだが、あいにく急な日程のため、人数分の確保はすでに不可能。

 

 そこで、組長だけはビジネスにし、残りはエコノミーで手配を進めたところ、烈火のごとく怒鳴り始めた。

 

「何でオヤジもエコノミーにしねぇんだコラ! おちょくってのんか、ああ?」

 

 子分とは、万が一の危険に備え、絶えず親分の側にいるもの。それを親分1人だけビジネスクラスに座らせるとはけしからんというワケだ。そんな常識、知らん!

 

同胞が困ってんのに怒るワケないだろ

 しかし、苦労したのは初めの1年だけ。いったんヤクザの扱い方がわかれば、ワガママばかり言う一般客より、よほど素直で従順だ。

 

 相手も何かと機転の回るオレを気に入り出し、気がつけば、毎回、添乗員としてついていくようになっていた。

 

 ただ、ヤクザはあくまでヤクザ。浮かれ気分の旅先では、時にトンでもないモノを要求をしてくることも。S組の忘年会に随行したときのことは今でもよ〜く覚えている。

 

 深夜、ホテルの自室でスヤスヤ眠っているオレを、若い衆が1人訪ねてきた。

 

「金本さん。シャブ、手に入らないかな」
「は?」
「いま部屋で花札してるんだけど、カシラが今どーしても打ちたいって」

 

 正直、クスリの調達は可能だった。まだオヤジが若く、自らヤクザツアーの添乗員をやっていたころに、知り合いのツテを頼り、地元の暴力団組織のお偉いさんと話をつけたのだ。

 

 問題は時間だ。こんな夜中(確か、午前2時を回っていた)に連絡を入れて、大丈夫なんだろうか。ふざけんじゃねぇとブン殴られ…、いや、下手したら殺されるかもしれんではないか。何しろ我が民族は、みなエラく気が短いのだ。

 

 が、シャブの入手を断れば断ったで、これまたS組のカシラが何というだろう。クスリの切れたシャブ中ほど危ないものはない。

 

 悩みに悩んだ末、私は恐る恐る件の地元組織幹部宅を訪ねた。こうなりゃ、低頭低身で懇願するしかない。果たして、幹部氏は快くシャブのパケを手渡してくれた。

 

「同胞が困ってんのに、怒るわけないだろ。ほら、早くホテルに戻りな」

 

 ちなみに、その日、オレはカシラからチップとして10万円をいただいた。

 

この銃で撃ったら一発で殺せる?

 やたらピストルを撃ちに行きたがるのも、ヤクザツアーの特徴だ。

 

 ご存知かどうかわからぬが、ソウルの射撃場では、コルトパイソン、S&Wなど10種類近くから使用拳銃を選べる。ために、中には、ここで扱い易さや威力を見比べ、今後国内で購入する際の参考にしようと考える連中も少なくないのだ。ただ、そこで通訳させられる私にはタマッたもんじゃない。

 

「この銃で人間撃ったら体にドデカイ穴とか開くかな? 一発で殺せる?」
「ねえ、これって連射はどこまで平気なのよ? トカレフとか熱くなると、銃身が歪んできちゃって使い物になんねーんだよな。金本さん、ちょっと聞いてみてよ」

 

 いかにもな風体の日本人が銃をぶっ放しながら、こんな物騒な質問をぶつければ、面倒が起きるのも必然。射撃場のスタッフが「日本のヤクザが来ている」と警察に通報、オレともども無用な取り調べを受けたことは一度や二度ではない。

 

 さて、ここまで読んで、皆さんは疑問に思うかもしれない。

 

 ヤクザといえばギャンブルに女。韓国じゃどちらも本場なのに、何も出てこないじゃないかと。

 

 意外に思うかもしれないが、連中はあまりカジノに行きたがらない。結局、大損するとわかり切っているので、大半はホテルの部屋で麻雀をやるか、賭けゴルフに興じる程度だ(それでも毎回、百万単位のカネは動くが)。

 

 女遊びも至って普通。盛り場で気に入ったコを自室に連れ込み、翌朝まで楽しむだけで、乱交のセッティングなど要望されたことは一度もない。

 

 某組長はその理由を次のように語る。

 

「せっかく旅行に来たのに、日ごろやり飽きたことをなんでワザワザやらなきゃいけないんだ?」

 

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