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「全米が泣いた」映画でアメリカ人たちは本当に涙するのか? カリフォルニアビーチ、砂漠地帯、ニューヨークで実地調査したった!
2015.11.28

ハリウッド

 洋画の宣伝でたまに見かけるこの文句。皆さん、気になったことはないだろうか?

 

―全米が泣いた̶―

 

 全米、つまりアメリカ全て。その映画を観たアメリカ人は、一人残らず涙したわけだ。どうやらこのフレーズは「アルマゲドン(98年日本公開)」あたりから使われ始めたらしく、その後も感動系のお涙ちょうだい映画でたびたび見かけることは、みなさんご存じの通りだ。

 

 

 ホントなのか。その映画によってアメリカ人はみんな泣くのか。事実でなければ、宣伝を作った配給会社は大嘘つきということになるが。こりゃ調査せぬわけにはいかぬ。

 

 ただ、全米50州をすべて廻るわけにはいかないので、代表的な地域として、西海岸、中部の砂漠地帯、そしてニューヨークの三カ所の人々に、該当の映画をiPadで観てもらい、涙が出るかどうかチェックするとしよう。

 

 持参するのは『かみさまへのてがみ』という作品だ。愚にもつかないファミリードラマだが、全米よ、アンタら、こんな陳腐な映画で泣くのか?

 

映画はこんな内容です
 8才にしてガンに侵された少年タイラーは、毎日欠かさず神様へ感謝の手紙を書いている。母親のこと、大親友のこと。身の回りの人々や神さまへ、感謝や祈りの言葉を綴るタイラー。その手紙を読んだ人々は感動し、自らも神様宛ての手紙を書くように。しかし、ガンはタイラーの体を蝕み、悲しい最期を迎える。

 

カリフォルニアビーチ編

 というわけで、アメリカはカリフォルニアにやってきました。温暖な気候、からりと渇いた空気、これぞアメリカ西海岸って感じだ。

 

 空港でレンタカーを借りてまず向かったのは、西海岸の代表的なビーチ、サンタモニカだ。ビーチのど真ん中に設置された遊園地の周りには、バーガーショップや土産屋、レストランなどがあり観光客の数も多い。

 

 

 遊園地脇の歩道で、ウエスタンハットを被った兄ちゃんを発見した。つたない英語で取材の趣旨を伝える。

 

「オー、君はそのためにトーキョーから来たのか? OKだよ」

 

 アンドリューさん、36才。この映画のことはタイトルすら聞いたことがないそうな。さっそくipadを渡し、上映開始だ。途中で倍速再生なども交ぜつつ、なんとか観終えてもらった。

 

 では感想を聞いてみよう。どうでした? 泣けました?

 

全米が泣いた-1

 

 いきなり泣かない人が登場してしまった。もうこれで全米は泣いてないことになってしまうぞ。

 

砂漠エリア編

 翌日、ハイウェイを飛ばし、ロサンゼルス北部の山を越えて砂漠エリアに向かった。

 

 走行距離が300キロを越えたあたりで景色は茶色の地平線だけになり、対向車の数もゼロに。逆に、馬で移動するオッサンがちらほら現れた。かなりの田舎まできたようだ。

 

 砂漠のど真ん中に、酒屋が併設されたガソリンスタンドを発見した。いかにもな雰囲気だ。ここらでいいだろう。

 

 ギャング風の黒人男性やボロい車に乗ったメキシコ人など、食料品を買いにきた現地人たちに片っ端から話しかけ、数人に断られ続けた結果、ようやくコンボイトラックに乗った白人男性がお願いを聞いてくれることになった。

 

 運送会社に勤務するジェフさん53才だ。彼もこの映画はまったく知らないそうだ。

 

 ipadの操作方法を教え、トラックの中で約1時間ほどかけて観てもらった。さて、感想はいかがでしょう。泣けましたか?

 

全米が泣いた-2

 あらら、泣かなかった人2連チャンだ。どういうことだ。

 

ニューヨーク編

 一旦ロサンゼルスに戻り、飛行機でニューヨークへ。空港を降りると一気に気温が下がった。アメリカは広い。このあたりはまだ冬だ。

 

 地下鉄を乗り継ぎ、ブルックリンブリッヂパークへ向かった。マンハッタンの眺めがいい公園として有名なスポットだ。さっそく協力者を探してみよう。

 

 ランニング中の白人男性や黒人カップルなど数人に断られつづけ、ようやく白人カップルが食らいついてくれた。

 

「トーキョーからそのために来たの? ハハハ、ハードワーカーだね」

 

 2人はジョージさんとカレンさん、30代のカップルだ。では近くのベンチで上映スタート。少々寒いこともあり、ところどころ早送りをかまして再生しつつ30分ほどかけて観終わった。さてどうだろう。泣けましたか?

 

全米が泣いた-3

これにて調査は終了だ。結果は4人中4人とも泣けず。西だろうが東だろうが関係なく泣けず。どういうことだ!

 

ウソツキ! 会社に電話だ!

 日本に戻り、かみさまへのてがみの配給会社に電話をかけた。

 

「もしもし」
「はい、もしもし」
「かみさまへのてがみの宣伝内容についての苦情なんですが」
「はい」
「全米が泣いた、と書かれてましたので、西海岸と砂漠エリアとニューヨークの3ヶ所で、現地のアメリカ人に観せてきたんですよ」
「はぁ…」
「結果として、誰も泣かなかったんですよ。何を根拠に、このような宣伝文句を使ったのかということを伺いたいんですが」

 

 電話口の女性は答えた。

 

「あのー、うちの方はプロデューサーのお話とかを受けて、アメリカでの試写とか一般の方への公開のときに、非常に涙を誘ったということを聞いての展開なので、あの、日本でもやっぱり、誰が泣いて、誰が泣かなかったというのは個人差があると思うんですけども、ウチとしてはそこを逆にアピールしたかった、というのがありまして、こういう展開になったんですけども」

 

 なんだかよくわからない。逆にアピール? 

 

「宣伝なのはわかるんですが、全てのアメリカ人が泣いてるわけじゃないですよね」
「もちろん、あのー、それが全て正しいかと言われると、あの、正しくはないのかもしれないんですけども、あのー、あくまでも宣伝ですので」
「いくら宣伝でもウソを言うのはよくないと思いませんか?」
「あのー、こちらとしましては、感動できる作品ですよ、泣ける作品ですよ、という説明を加えて紹介しなくてはいけないので、そういう表現になってしまったんですけども」

 

 どうにもわかりにくい説明だ。煙に巻く戦法か。

 

「とにかく全米が泣いたは言い過ぎだと思うんですよ。今後は使わないでいただけますか?」
「はい、そうですよね。わかりました。そういったご意見を頂いたことを社内でも検討させていただきますので。どうもありがとうございました。失礼いたします」

 

 社内で検討か。これじゃ改善されるとは思えないな。

 

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