スポット
出ると噂の『幽霊ホテル』を泊まり歩く(前編)
2015.11.21

幽霊ホテル200903

 世界的に有名なホラー小説家、スティーブンキング原作のパニックスリラー映画『1408号室』が、08年11月、日本で公開された。

 

  『幽霊の出るホテル10夜』などのガイド本を出して生計を立てている主人公の作家が、泊まった客のほとんどが怪死するという、いわく付きホテルに宿泊、様々な超常現象に巻き込まれていくというストーリーだ。

 

 正直、怖い話は嫌いだ。

 

 ホラー映画を観た後、トイレの鏡に何かが映ったらどうしようかと怯えたり、怪談話を聞いただけで背筋がゾクゾクすることだってある。

 

 だからと言って幽霊がいるとも思わない。これだけ科学が発展した時代に、霊の存在を本気で信じている人の方が圧倒的に少数派だろう。

 

 しかし、日本にも殺人や自殺のあったホテルや、墓地の上に建てられた旅館など、幽霊が出ると噂されるスポットは数多く存在する。

 

 岩手県の某旅館では、座敷童が出るという噂が根付いたおかげで、2年先まで予約客で一杯なんだとか。ひょっとしたら、客寄せのために宿がわざとその手の情報を流すこともありえなくはない。

 

 座敷童に会えるなら、まだ幸せだろう。が、自殺者や殺人事件があった宿など、相当なマニア以外、誰も好き好んで泊まったりしない。

 

 ネットには、幽霊の出るホテルの情報が溢れている。ただ、その大半が1人による書き込みだ。これでは単なるイタズラ書きか嫌がらせの可能性が高い。

 

 しかし、中にはある。複数の人間が《出る》と噂する宿がチラホラ見受けられる。単なるデマなのかもしれないが、もしかしたらもしかするのかも。それは実際に泊まってみないとわからない。

 

 正直、行きたくはない。幽霊なんぞ見たくもない。いや、何も起こらないのはわかってる。いやいや、起きてほしくない。

 

部屋がない方の壁から声が聞こえてきた

 最初のターゲットは大阪のビジネスホテル、ホテル関西だ。このホテルについての書き込み数はハンパじゃない。

 

『昔女友達と一緒に泊まったんだけどいきなり部屋をノックされる事が何回かあった(開けたら誰もいなかった)』
『お風呂場開けた瞬間、うぅ〜…って男の人の声が聞こえてきた』
『角部屋に泊まっているにも関わらず、部屋がない方の壁から声が聞こえてきたことがある』
『東京からライブに来たバンドマンが毎回見るって言ってた』

 

 他にも、横になった体の上を黒い顔の赤ん坊がハイハイした、フロントにいないはずの老人が立っていた等々、ホラー映画ばりの超常現象が大量に書き込まれている。

 

 まずは、予約の段階で電話に出たおばさんに噂について尋ねてみたところ、「そのような話は聞いたことがないです」とそっけなく返された。とぼけてるのか?

 

 ホテル関西は風俗街のど真ん中に建つ、古いビジネスホテルだった。フロントの従業員たちも、どことなく疲れた雰囲気だが、ごく当たり前の接客で、何かの霊に憑依されているようには見えない。

 

 

 ちなみに、料金は1泊わずか4千650円。これだけ安ければ、多少古くても我慢して泊まる人は多いだろう。

 

 チェックインを済ませ、エレベータで目的の3階に降りると目の前に壁が現れた。廊下が狭く、天井も低いのでかなりの圧迫感だ。古ぼけた蛍光灯が薄暗く照らし、不気味さを増している。

 

 廊下を歩いていると一瞬、首筋がゾクっとした。恐らくや、フィルターがかかっているのだろう。

 

 何か恐ろしいものに遭遇するかもしれないと構えていると、それを意識して怖い気持ちが強まり、ゾクゾクと鳥肌が立つ感覚。霊感が強いという人は、この感覚のことを勝手に霊の存在に置き換えてるだけなんじゃなかろうか。

 

 でも、コワイっす。

 

8階がヤバいすよ。本当に怖いですから

 部屋の扉を開き、電気を付ける。広さ3畳程度のドヤのような空間。確かに薄気味悪い。壁紙はすすけ、土壁のようにボコボコした天井には裸電球がブラ下がっている。

 

 今どき裸電球かよ。ホテル側の演出なんじゃないのか。

 

 壁に掛けた絵の裏にお札が貼られた部屋はヤバい、なんて話も聞くが、写真や絵の類は一切なし。

 

 ベッドの下に包丁を持った女が寝そべっている、という都市伝説も聞いたことがあるので、念のため覗いてみたが、当然ながら誰もいなかった。

 

 現在、時間は夜8時半。丑三つ時の深夜2時までは目を開いておきたい。

 

 テレビもつけず、静かな部屋でしばし佇む。少しだけ怖い気分になってきた。出入り口付近の暗がりの壁に設置された鏡を覗き込むのも、トイレのドアを開くのも、なんとなく怖い。

 

 開けたらうめき声が聞こえたと書かれていたが、本当に中に誰かいたら…。絶対にありえないと頭ではわかっていても、リアルに想像していくと、怖さを感じて背筋がゾワっとする。

 

 ただ、この感覚を何度も試してみると、単に自分の意識の問題だと気づく。自分で怖い怖いと思い込んでいけば背筋が寒くなるし、これから美味しいものでも食べようと考えたり笑えるエピソードを思い出せば、寒気のような感覚はすぐに消える。

 

 

 夜11時、食事を終えてホテルに戻ると、エレベータ付近で若い男性2人が立ち話をしていた。初めて客の姿を見た。少し話を聞いてみよう。

 

「すみません。このホテルに幽霊が出るって噂を聞いて来たんですけど、そういう話を…」
「あー、実は僕らも横浜から来たんですけど、さっき別のバンドの人に『お前らアソコ泊まんの?ヤバくねえ?』って言われたんですよ。な?」
「うん、なんかココ有名みたいですね」

 

 彼らは『アトリ』なるインディーズバンドのメンバーで、近くのライブハウスで演奏をして戻ってきたところらしい。どうやらこのホテル、バンドマンたちの間では、安く泊まれるが幽霊も出るホテルとして有名のようだ。なんだか、盛り上がってきたぞ。

 

「ここ8階がかなりヤバいすよ。行ってみてくださいよ。本当に怖いですから」
「え? 何か見たんですか?」
「僕らには説明できないです」

 

 えー、そんなこと言われたら怖いじゃん。彼らと別れ、ビビりまくりながらもカメラを持ってエレベータへ。ボタンを押そうと思ったら、最上階の8階部分だけ数字が消えている。やってくれるじゃん。

 

 8階まで上り、ドアが開く。その瞬間、目の前で何かがピカピカと光った。

 

「うわっ!!」

 

 あまりの驚きで思わず声が出た。ビーッ、ビーッ、ビーッと警告音も鳴っている。庭先などに置く防犯用ライトだ。なんてことをするんだ。

 

 壁に取り付けられたランプの下には煤けた紙切れが貼ってある。

 

『この階は客室ではございません』

 

 わかってるって。廊下の奥を覗いてみた。暗くてほとんど見えないが、どうやら倉庫として使われるらしい。あー驚いた。でもこんなの心霊現象でもなんでもない。

 

 深夜2時30分。部屋のベッドに横になっていると、机に埋め込まれた赤いデジタル時計が不規則に点滅し始めた。強引に心霊現象だと思い込むこともできるが、単に古くて壊れただけだろう。

 

 その後は何も起こらず、壊れた時計の点滅を眺めているうち、深夜3時半ごろ眠ってしまった。

 

えっ? えっ? 写真撮るんですか?

 やはり霊など簡単に見れるもんじゃない。いつでも誰でも心霊体験できる宿があるなら、客の予約で一杯になるはずだ。

 

 が、次に向かう熱海のニューアカオホテルは期待が持てる。このホテル、飛び込むと遺体が上がらないと言われる自殺の名所、錦ヶ浦の崖の上にある。過去に500人以上の人間がそこから海に飛び込み、命を絶っているらしく、幽霊を見たという情報も多い。

 

『熱海のニューアカオ。海に面した露天風呂のあたりにいっぱいいる。そこ以外でもうようよしてる』
『アカオは確実にやばい。ウエディングドレス着て写真を撮るところ。思い出しただけでも鬱だ』

 

 自殺の名所だけに、自縛霊のようなものがいるのかもしれない。

 

 今回は助っ人として、心霊体験のあるフリーライター、大城氏(30才)に同行してもらった。彼自身、幽霊の存在は信じていないが、説明の付かない超常現象に過去2回ほど遭遇したことがあるらしい。

 

 一つは学生のころ、老人の飛び込み自殺のあった橋の上で、数人の友人たちと共に緑色に光る人型の発光体を目撃。もう一つは、東京赤羽の某ラブホの一室で、鏡越しに女性の姿を見たという。

 

 霊は信じないと言いつつも、複数の人間が同時に見た緑色の発光体については、自分でも説明が付かないようだ。幽霊アンテナの大城氏と自殺の名所に行けば、何かしらの心霊体験に遭遇できるかもしれない。

 

 11月の平日、夜7時。熱海駅からタクシーで10分ほど走り、ホテルに到着。建物の外観は少し時代を感じるものの、小奇麗なリゾートホテルという雰囲気はまだ十分残っている。

 

 部屋に案内してくれたホテルの女性従業員に、それとなく聞いてみた。

 

「ここって自殺の名所だと聞いたんですけど、その崖は近いんですか?」
「えっ、えっ? 写真撮るんですか?」
「いや、ちょっと見たいだけなんですけど」
「えー絶対怖いですよ。すごく暗いですから」
「ホテルの館内で、何か出るみたいな噂は聞きますか?」
「あっ、よく聞きますね。私は見たことがないんですけど、先輩たちの間では、館内の廊下で見たって話を何度か聞いたことありますよ。私もまだ入ったばかりなんで詳しく聞いたことはないんですが」

 

 貴重な情報だけど、おねーさん、そこまでしゃべっていいの?ボクら、一応客なんですが。

 

後編はコチラ

 

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