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犯人を追跡した執念の2年間!ネットで誹謗中傷した相手を訴え300万円の損害賠償金をブン取りました
2015.11.7

PCに銃

現在、インターネットはある意味、悪口陰口の掃き溜めだ。
2ちゃんねる、SNSはもちろんのこと、近頃話題の学校裏サイトなども、手っ取り早い誹謗中傷ツールとなっている。
読者のみなさんもこの手の書き込みを、目にしたことがあるだろうし、中にはネット上で理不尽な書き込みをされた人だっているかもしれない。
しかし、ふざけんなコノヤローとパソコンの前で騒いだところで、大半は泣き寝入りするしかない。ネットは匿名社会。
悪口を書き込んだ相手を特定するのは到底不可能。と、あきらめざるをえないのが現状だろう。
今回、紹介する都内在住の草加久司氏(仮名)もまた、ネットのブログで誹謗中傷を受けた男性である。たとえようのない怒りを覚えた書き込みは、当然匿名。
わかるのは、そのブログが、某有名サイト(仮に『X』とする)内のページということだけである。
が、草加氏は決して泣き寝入らなかった。
行政書士ならではの法律知識、財力、人脈を駆使し、『X』やプロバイダーに相手の情報の開示を要求、最終的に裁判を起こし、損害賠償を勝ち取った。

誹謗中傷ブログの発見から解決まで足かけ2年。《名誉回復》への執念を本人にリポートしてもらった。

 

 『草加は、企業から金を脅し取っている』

行政書士の私は、仕事の雑感を書き綴る自分のブログを持っている。それなりにアクセス数も稼ぐこともあって、他ページでの反響も知りたくなる。自然、ネットで自分の名前を検索する習慣がついていた。
06年9月6日。その日、ざらっと並んだ検索結果の中に、見慣れないブログのタイトルがあった。クリックしてみると、目を疑うような言葉が並んでいる。
『草加は、企業から金を脅し取っている』
『草加のブログには電話番号が掲載されてないので、電話がつながることはない』
『草加はお年寄りに近づいて、無理やり仕事を取ってくる』
ほんの抜粋だが、一貫して私の仕事に関する中傷が書き連ねてあった。よく創作したなと感心してしまうほど、すべてが身に覚えのないウソである。
書き込みの日付をチェックして恐ろしいことに気づいた。日時は約2週間前の8月22日で、ブログに書かれた記事はこれ1本だけ。つまり、ブログを立ち上げて一発目の書き込みが、私への誹謗中傷なのだ。まさかこのブログ、私を罵倒するために作ったのではないか?
他にも記事があって、どこでメシを食っただの、映画を見ただの書かれていれば、相手の人物像が見えてくるが、そう言った手がかりは一切ない。いったいどこのどいつが…。
脳裏をよぎったのは、何人かの同業者の顔である。行政書士なんて商売は、表向きは真っ当な人間の顔をしながら他人の足を引っ張る者も少なくない。私の仕事っぷりが面白くない知り合いが犯人という可能性も十分ありうる。だとしたら捕まえてたんまり金を払わせてやるか。

 

ブログ主の情報開示を求めプロバイダへ書類を

誹謗中傷への対応法をネットで調べたところ、経産省のホームページに『侵害情報の通知書 兼 送信防止措置依頼書』と『発信者情報開示請求』の書式がアップされていた。
これは、プライバシーの侵害・名誉毀損が行われていることを、ホームページの管理者やプロバイダーへ主張するためのものだ。
さっそく私は、『X』側に書類を送りつけた。要求内容は、ブログの削除と、発信者(ブログを作成した人物)情報の開示である。
10日後、中傷ブログは姿を消し、それから日を置かず、『X』から郵送されてきた報告書によると、削除願いが出ていることを発信者へ通知し、自らが削除したらしい(発信者が応じない場合は強制的に削除するケースもある)。
ただ、発信者の情報開示、つまりどこの誰の仕業なのかという要求については、以下の一文で済まされていた。
『守秘義務があるので開示できません』
私には、天下の大手プロバイダーが犯人をかくまっているようにしか思えなかった。

 

『法律に基づく確認手続きを行った結果…』

その後、自分の要求がいかに正当かを主張するため、自分の仕事内容などを資料として『X』側に提出したところ、10月21日付で、ようやく発信者情報を記した書面が届いた。
開示されたのは、氏名、住所、メールアドレス、IPアドレスの4つ。唖然とする内容だった。
発信者の氏名は私の本名、住所は私の現住所、メールアドレスは私のブログ名をもじったヤフーメールだ。
つまり、犯人はフリーアドレスのヤフーメールを取得し(取得時に私の名前や住所で登録したと思われる)、そのアドレスで『X』内に中傷ブログを立ち上げたのだ。
今にして思えば、『X』側も、こんな適当な情報だからこそ、開示に応じたのだろう。
唯一の手がかりは、IPアドレスである。
IPアドレスとはネット上の住所のようなもので、どこのプロバイダーを、どのようにアクセスしたかがわかる重要な情報だ。そして、この情報は、JPNIC(ドメインの管理団体)というサイトの『whois検索』サービスを使うことで、相手が使用するプロバイダーを突き止められる。
果たして、発信者が使っていた某大手プロバイダーは『Z』だった。ならばと『Z』へ発信者情報の開示を求めたが、返ってきたのは、
『法律に基づく確認手続きを行った結果、開示に応じることはいたしかねます』

 

ならば訴えてやろう 気持ちは大いに盛り上がった

もはや素人が自力でやれるのはここまでか。
『Z』に情報開示を迫るには、弁護士の力を借りて民事訴訟を起こさなければならない。
もし私が普通のサラリーマンなら、この時点でギブアップしていただろう裁判など、どう考えても面倒だ。
が、幸か不幸か、私は行政書士である。弁護士の知り合いも何人かいる。訴訟を起こすハードルはさほど高くない。
ひとまず、ネット関係に強い弁護士に相談したところ「まず負けないよ」との回答。ならば訴えてやろう。気持ちは大いに盛り上がった。

 

《一応は精一杯頑張りました》という建前をつくるため?

12月5日。最初に東京地裁で『Z』に対する仮処分申請を提出した。弁護士によると、プロバイダーは、アクセス時のIPアドレスを約3ヵ月で削除するらしい。よって、仮処分で発信者情報の保存を裁判所に命令してもらう必要があるそうだ。
申請は約1週間後、12月12日に認められた。

翌07年3月10日、いよいよ本訴、つまり『Z』側に対する発信者情報の開示を求める訴訟を起こした。
判決が下されるまでの間、法廷では激しいやりとりが繰り返された…のであればもっとドラマチックな報告ができたかもしれない。
が、実際には淡々としたもので、こちらの訴えに対して『Z』側から反論の答弁が出されたのは一度だけだ。
『発信者によれば、例のブログに書かれた内容は事実であり、発信者情報は開示できない』
根拠に乏しい、通り一遍の内容だが、私は読めた。

おそらくや、『Z』は、この手の訴訟をうんざりするほど抱えており、私の方に利があるのもわかっている。この反論は、後でブログの発信者に開示理由を説明するとき《一応は精一杯頑張りました》という建前をつくるためだろう。
発信者に正当性があるならスグにでも情報開示して徹底的にやり合うという選択肢もあるのに、そこまで戦い抜く意志は到底なさそうだ。

 

ついに判決 被告は原告に対し住所を開示せよ

そんな、形式だけの馴れ合い裁判も、弁護士の二度の出廷による口頭弁論を経て、本訴から約7カ月後の07年12月25日に判決が下される。

『被告は原告に対し、別紙発信者目録記載の発信者の氏名(名称)及び住所を開示せよ』
 裁判所の判決を受け、翌08年2月6日、『Z』側からIPアドレス情報が送られてきた。

発信者=株式会社××工業
住所=東京都△△区◇◇町
   ○丁目○番○号 @@ビル □階

 

一般企業のサーバーから発信されている。社員の誰かが、社内のパソコンのどれかを使って、ブログを作ったようだ。同業者じゃなかったのか。
あれ、待てよ。××工業、××工業…。なんか聞いたことのある社名だな。
そう思った瞬間、私の中に一つの記憶がよみがえった。もしかして、アイツか!?

 

『譲ります』という掲示板で知り合っただけの男がナゼ

頭に浮かんだのは、Tという人間である。5年ほど前、『譲ります』という掲示板に私が不用の自転車を出品した際に知り合った中年男性である。
そのとき自転車を手渡しで譲って以降、年賀状やメールを交わす仲になり、お互いの職場が近いということもあって、06年8月に居酒屋で飲んだのが二度目の再会だった。
考えてみれば、それから約1週間後に中傷ブログが作られている。タイミング的には合点がいく。
納得できないのは、原因である。あのオッサンとトラブったことなど一度もない。誹謗中傷される理由がまったくわからないのだ。
だとしたら、同じ会社の別の人間が?ありえない。
××工業で私と接点のある人間はT一人だけである。

 

犯人は99・9%、Tに間違いないだろう。
事実関係をハッキリさせるには、本人に確かめるのが一番だ。が、直接の接触は避けることにした。ブログ発見から約1年半ほど経過し、感情的な話し合いを行う気はすでにない。できればすべて書面のやり取りだけで済ませ、金だけきっちり払ってもらえばいい。
本心だった。
08年2月15日、考えた挙げ句、T個人宛に名誉毀損の慰謝料として500万円を要求する旨を記した内容証明を送付した。
500万という数字には大した根拠もない。相手の反応を見るためだ。
ところが、あろうことか内容証明は受け取りを拒否され(法的に受け取り拒否することはできる)、こちらへ戻って来るではないか。
だが、逆に言えば、これで犯人がTであることが確定したのだ(その後3回、同じ内容証明を送ったが全て受け取り拒否)。

 

《会社バレ》ほどサラリーマンにとってイヤなことはないだろう

5月10日、私は弁護士を通じてTの勤務先に、以下の主旨の内容証明を送り付けた。
『貴社の社員からネットで誹謗中傷を受け、名誉を著しく傷つけられました。Tという人間以外には心当たりがないのですが、貴社でご確認願えませんか』
自分の犯罪の《会社バレ》ほどサラリーマンにとってイヤなことはないだろう。相手の出方を伺っていると、数日後の昼間、私の事務所のドアをドンドン叩く男の怒鳴り声が聞こえて来た。
「おい、開けろぉ!」
チェーンロックしたままドアを半開きにする。Tの顔があった。赤鬼のような形相である。怒りたいのは私の方だが、この様子では会話もままならない。
「オマエ、会社に言いやがったな、このヤロー」
「…3分くらい待ってくれないか。とりあえず110番するから」
Tは、私が携帯を手にすると、途端にすごすごと帰って行った。

 

結局、それから4カ月後の08年9月27日。私の弁護士がT本人との話合いを重ね、一応の決着が着いた。

和解内容は、損害賠償として300万円。
こちらも弁護士費用がこれまで180万以上かかっているため、労力を考えれば決して納得できる額ではない。
しかし、本人と交渉した弁護士によれば、家のローンがある、娘の大学の授業料がかかるとゴネまくっているとのこと。
最終的には、最初は半金の150万、残りは毎月5万円の30回の分割払いにして、嫌味たっぷり2年かけて払わせることにした。
それにしても、未だにわからないのはTの動機であるやつはなぜこんな中傷ブログを立ち上げたのだろうか。
事務所のドアからTの顔を一瞬見た以来、一切本人と接触していないし、あちらから謝罪の言葉は一言もないので本当のところはわからない。
ただ、交渉した弁護士の話では、私と居酒屋で飲んだとき、不愉快な気分にな中傷ブログ作成には社内のパソコンが使われていたったという。
こちらが多少羽振りがよいのを妬んでいるのか、それとも万年平社員の自分がよほど惨めに感じたのか。
世を恨み、人を妬んだ挙げ句、気にくわないヤツを攻撃してしまう
最近のニュースで聞き飽きた犯行動機が真相なのか。
いずれにせよ、嫌な世の中になったものだ。

 

 

 

 

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