その他
銃弾、ウサギの頭部、眼球のない猫…。プロの回収屋も思わずビビった恐るべき広告料金未払い者たち
2015.10.21

積み上げた札束4

 ヤミ金でメシを食い始めて7年。
天国と地獄を散々味わってきたが、この2年ほど続く当局の取締りで、今や業界全体が虫の息である。
 いよいよオレも失業か…。
暗い表情で日々の追い込みをかけていた昨春、ケツ持ちのヤクザに呼び出された。
「知り合いの業者が、債権を焦げつかせて困っとんねん。ヒマやったら、仕事手伝ってくれへんか?」
「えっ、ホンマすか!」
 おそらく不渡手形の回収だろう。額面は200万か1千万か。いずれにしても臨時収入はありがたい。
 詳細も尋ねずに二つ返事でOK。
さっそくヤクザと一緒に依頼者のもとへ挨拶に出向くと、意外や意外、そこは日本中に名の知れた求人広告会社Xだった。
「わざわざ、ありがとうございます」
 応接室に居並ぶオッサン連中がヤクザに深々と頭を下げる。専務に常務に人事部長。どういうこと?
「単刀直入に申します。後払いの未収広告料を集金していただきたいのです」
「え、それってツケ(売掛金)の回収のことですか?」
「はい」
 てっきり倒産会社の手形かと思いきや、取立相手はX社の発行雑誌に募集広告を掲載している、正真正銘のクライアントだという。
 いくら料金未払いとはいえ、そんなところにオレみたいなチンピラが顔を出せば、今後の取引は確実にご破算。若手社員に任せた方がええんちゃいますか?
「それがですね、最近はタチの悪い広告主さんが多くてほとほと困ってるんです。とりあえず、会社の中に机とパソコンを用意いたします。週3回、適当な時間に顔を出していただき、仕事が入るたびに回収業務をお願いしたいのです。いかがでしょうか?」
 常務は本気だった。
なんでも『営業課第5係』なる部署に配属され、契約社員として月20万を保証されるそうだ。
 回収業務の報酬は3割。
つまり、200万の取立てで歩合60万、給料と合わせれば毎月80万もの収入だ。ええやないか!
「ゼヒ、やらせてください」
 こうしてオレは生まれて初めて一般企業のサラリーマンとなった。
 翌朝11時に出社し、挨拶を済ませると、カーディガンに財布姿のOLに、いきなりランチへ誘われた。うわぁ〜。世の中にはこんな生活もあったんやな〜。
 むろん、ノンビリしてばかりもいられない。
紹介してくれたヤクザの顔を立てるためにも、その日から八百屋に魚屋、スポーツ用品店とまずは商店街を攻めまくった。
「旦那さん、ダメよ、ウチ飛ばしちゃ。一応マスコミやで。商売にならなくなることもあるんちゃうの。こっちの出方で…、わかっとんのかい!!」
 生まれ持っての強面と、長年培った高圧的な話術で仕事は楽勝。1カ月で回収150万、歩合が45万!まずまずの初任給やな。

 

大型犬の足が半分にスライス

 入社2カ月がたったある日、一軒のさびれた精密機器工場に足を運んだ。3カ月分の掲載料50万円を1年以上滞納中の不良会社だ。
 スウェットにドテラ姿のオヤジが、卓上ドリルで作業に没頭していた。ほう、あれが社長か。
「ご主人! 広告料の件で、話があるんですわ〜!」
 オレはいきなり怒声を上げた。が、その声は、狭い敷地に鳴り響く機械音にかき消されてしまったようだ。
 オッサンの肩をゆすり、再び怒鳴る。
「おい!求人広告の入金確認がついてないんでっけど。どっかで工面してもらえるか」
 ようやく顔を上げ、オッサンが言う。
「借金取りがようけ押しかけてきて、ワシ、嫁さんの首くくったさかい…」
 はぁ? な、なんや、その虚ろな目は…。明らかに狂ってるで。
「金取りにきたんか?」
 当たり前じゃ!と声を張り上げそうになったのを寸前で止めた。作業台の上に複数の金属部品が並んでいたのだが、その中に銃の弾丸を見つけたのだ。
 このオッサン、追い込まれたら何をやらかすかわからんで…。会社には虚偽報告でごまかしとこう。
 ヤミ金でも中々お目にかかれないツワモノは、他にもいた。腐った花を投げつてくる葬儀屋、自分が介護されている介護士派遣会社の社長、ツルハシで身構える建設会社の従業員軍団など。中でも最強だったのが、大学病院の生物学教授だ。
 助手募集のため、Xの求人広告を利用した教授は、半年以上も10万円の支払を滞納していた。
 教授の研究室は、大学に見捨てられたような古めかしい建物の一室にあった。頑丈な鉄の扉を開けると、中から妙な臭気が漂ってくる。な、なんやこれ…。
「教授、おるんですか!?」
 カギのかかってない扉を開け、薄暗い部屋を一歩ずつ進む。と、足元で何かに躓いた。
 ウ、ウサギの頭やないか!それも地面に固定されている。なんじゃコレ!?
 震えつつ身を翻すと、今度はさっきまで死角だった入口脇の棚に、人間のホルマリン漬けが数体並んでいるのを発見。うげぇぇぇ〜。
 さらに、机の上に不気味な物体を見てしまった。1匹の腹の穴が開けられ、そこから黄色いチューブが伸び、正体不明の機械につながっている。その隣の猫は目玉がなく、頭部にある機械装置の赤ランプがしきりに点灯していた。
 極めつけは、アゴのない大型犬だ。足が半分にスライスされ、筋肉や骨がむき出し。それが悲しい眼でこちらを見ているのだ。う、うわぁぁ!
 一目散に飛び出すと、背後で人の声がした。
「誰だ!待て、待て〜!!」
 白衣を着ていた格好からして、おそらく教授だろう。おまえみたいなマッドサイエンティスト、死んでまえ!
 息も絶え絶え会社に戻り、教授が出した求人広告を確認してみた。
【研究材料の移送や調達など、簡単なお仕事です】
 動物の調達が簡単な仕事なわけないやろ!

 

 キテレツな客に振り回されながら10カ月。オレは今日も派遣社員として会社のデスクに座っている。成績は良好なので、そろそろ昇進かもしれへんなぁ。

 

 

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