その他
夫婦が夜逃げした借家のボットン便所でくみ取り作業員のオレが見つけた信じられない物体
2015.10.18

バキュームカー

 高校を卒業し、地元の小さな産廃業者に就職したのが4年前。最初は、違法投棄されたタイヤや建材などの回収がメインだったが、半年が過ぎたころ仕事が一変した。ボットン便所のくみ取り作業である。

 

 

 ドの付く田舎町ゆえ、水洗トイレは未だ全家庭に行き渡っていない。が、なんでオレなんだ。なんでそんなクセー仕事しなきゃなんないんだ。新人の身で断れるわけないことはわかっていながら、オレは心の中で毒づいた。

 

 翌日。先輩と2人でバキュームカーに乗り込み、市から要請のあった8軒の人家を回った。にしてもスゴイ量である。幅1.5メートル、深さ1.7メートルほどの浄化槽に溜まった糞尿はなんと平均1.5トン。夕方、仕事を終わるころには、すっかり体に匂いがシミついていた。

 

 ほとほと嫌になったが、慣れというものは恐ろしい。1週間もすれば抵抗は無くなり、加えて、くみ取り仕事ならではの旨味も見つけた。何を隠そう、家主が誤って落とした金やサイフを、こっそり頂戴するのだ。浄化槽の端にホースを置き、上澄みを吸引。お宝が顔をのぞかせたら、タンクの中に入らぬようホースの先にネットを装着し、改めて吸い込むだけ。ま、良くて月に1、2万といったところだが、月給20万円の身には、有り難い小遣いだ。

 

 仕事を始めて3カ月後のある日、社長から急きょ3丁目の借家へ行くよう指示が出た。ん?確かあの家は3カ月後の予定じゃ?

 

「住んでた夫婦が急に出てったみたいでな。新しい人を入居させたいから、すぐ来てくれって大家がうるさくてよ」

 

 先輩と2人で件の家へ向かうと、玄関にサラ金の督促らしき貼り紙が。なるほど、夜逃げか。さっそく裏手に周り、便所から糞尿を吸む。今日はお宝あるかなあ。

 

 ソレが目に飛び込んできたのは、吸引して5分ほど経ったころだろうか。

 

「ん?どうせ子供が落としたぬいぐるみだろ。吸っちゃえ吸っちゃえ」

「いや、もしかしたら貯金箱かもしれませんよ」

 

ノー天気にクソまみれの物体を取りだし、枝で突いてみた。何かやけにぶよぶよしてるような…。「オマエ、こんなゴミ拾ってど〜すんだよ」呆れ顔の先輩を尻目に、オレはなおも”ソレ″に水をぶつかける。う〜ん、ぬいぐるみでもなさそうだし…。

「お、おい!!」

 

 ソレが捨てられた赤ん坊の死体であることに気づいたのは、先輩の方が先だった。

 

 事件は新聞の地方欄で報じられらたが、あれから3年たった現在も、彼らが捕まったとのウワサは間がない。オレは、時々目の中にウジが湧いた赤ん坊の顔を思い出しながら、今日もバキュームカーに乗っている。

 

 

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