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電子タバコで本当に禁煙できるのか?
2015.10.18

禁煙ステッカー二十歳の頃に吸い始めて早18年。
1日1箱と計算すると、月に1万円、トータルで200万近くをタバコにつぎ込んだことになる。
やめたいと思う。
やめねば、とも思う。
しかしあの旨さはそう簡単に手放せるものではない。
なんだかんだでズルズルと吸い続け、いたずらに死期を早めているのが現在の私の姿である。
なので、本特集を組むにあたって私は、編集長特権を生かし、電子タバコの禁煙効果について検証しようと考えた。

 

電子タバコ。
なにやらいろいろな種類が売られているらしいが、どれも基本性能は同じである。
先端が赤く光るうえ、口から煙らしき水蒸気を吐き出せるため、本当にタバコを吸ったような気分になれるという代物だ。
この“気分になれる”という点は、禁煙するにあたって実にデカイように思える。愛煙家は旨い旨いと言いながらタバコを吸ってはいるが、実のところ、煙を肺に吸い込む快感そのものよりも、指にタバコを挟み、口にくわえてプカプカする。
“動作”を愛しているものだからだ。
斬新なアイデアが、禁煙を志す者の琴線に触れたのか、ネット通販でも東急ハンズでも売り切れだらけというこの人気商品、はたして効果はあるのだろうか。

 

ただ、検証といっても自分自身で行うのは、読者に対し不誠実な気がする。
こういった精神力をも試される商品の場合、〃企画のため″という意識が頭の中にあると、むりやり我慢したりあるいは簡単にあきらめたりと、どうしても素の自分が出てこず、本来の意味での実験になりえないからだ。
そこで思いついたのが、手下を使う方法である。

 

編集部にタネイチという男がいる。
以前からこの男がタバコやめなきやとこぼすのを私は何度か耳にしたことがある。
ヤシに電子タバコをくれてやればどうなるか。
「もらったんだけど俺は禁煙するつもりないから、お前にやるよ」と。
即座に飛びつくだろう。
口にくわえるだろう。
禁煙を切望する者にとって、本商品に心動かぬわけがない。

 

その様子をしばらくこっそり観察すれば、本当の意味での効果が判明するではないか。
編集部員とはいえ、ヤシには電子タバコが特集ラインナップに含まれることは伏せておく。
これなら、企画のためという意識は生まれようがない。
大義のためには部下をもダマす。
編集長とはそういうものだ。

 

初日

タネイチは私からのプレゼントを大喜びで受け取った。
むさぼるように説明書を読んでいる。解説しておこう。

 

商品名は『ミスモ』(12600円)。
ニコチンもタールも含まれておらず、ほのかにミント&グレープフルーツの香りがするだけだ。
軽く試し吸いしたタネイチはこう言う。
「これ欲しかったんですよ。味は薄いけど、いい感じですね」
本人にヤル気がなければ計画もパーだったが、見込みは間違ってなかったようだ。
鉄人社のオフィスは禁煙のため、タバコを吸う者は皆、頻繁に外の喫煙所へ足を運ぶ。
私など自分の席よりそこにいる時間のほうが長いくらいだ。

 

しかしこの日、ヤシは喫煙所へ行かなかった。
パソコンに向かったまま電子タバコをスースー吸っては水蒸気を吐き出している。
帰りに軽く聞いてみた。
「どう?禁煙できてんの?」
「ええ。これ、マジでやめられそうつす。ありがとうございます」
ホントかよ。

 

2日目

自宅での行動まではわからないので、朝、エレベータで出会ったときに昨晩は誘惑に負けなかったかどうか尋ねてみた。
プレゼントした者として、そのあたりを気にするのは当然である。
「昨日ぜんぜん吸ってないの?」

「吸いましたね」

「なんだ、禁煙になってないじゃん」
ちゃかす私に、彼は答えた。
「やっぱメシの後はキツイすね。でも昨日はその1本だけですよ。普段なら1日1箱はいきますから」
1日別本吸ってたヤツが1本で我慢できたとは。
初日だから気合いが入っただろうことを差し引いても、たいした効果である。

 

午前中、ヤシが喫煙所に向かう動きはなかった。
あいかわらずパソコンに向かって水蒸気を吐くばかりだ。
ところが昼過ぎに立ち食いソバを食って戻ってきたとき、喫煙所でばったり出くわした。
ラッキーストライクに火をつけ、余裕でスパスパかましてやがる。
「あれ、吸ってんだ?」

「ええ、メシ食ったんで」
やはりメシの後は我慢できないのか。
それでは禁煙にならんと思うが、毎食後に1本ずつなら大きな進歩と言える。

3日目&4日目

週末のため、ヤシに会うことができない。
心配だ。
まだ食後の1本だけで我慢できているんだろうか。
そろそろ心折れていてもおかしくないころだが。

5日目

「よお、まだ禁煙してんのかよ」
朝、顔を合わせるや、さほど気にしていない素振りで聞いてみた。
「いや、量は減ってますけど」「どんくらい?」「2日で1箱ぐらいすね」
どういう計算だ。食後だけなら2日で6本だろうが。
「ん-、やっぱり肺にクーッて来ないと吸った気になれないんすよれ」
挫折したと見るべきか。
いやしかし2日で1箱なら以前の半分だ。
もう少し様子を見るか。

6日目

なんだか観察するのがバカバカしくなってきた。
タネイチの野郎、何度も何度も喫煙所に行ってやがるではないか。
午前中の2時間だけで3回、午後も1時間に2回の頻度で外に出て行く。
どういうことかと問いただす私に、ヤシは煙を吐き出し言う。
「ああ、もうやめました。最初だけでしたね、我慢できたのは」

結果

タネイチの言葉を記しておこう。
「最初は気が紛れてよかったんですけどね。口さみしいだけのときにはいいかもしれないけど、酒を飲んだときやセックスの後はやっぱ本物の煙じゃないと」
本気で禁煙したがっていた男がこのていたらくでは、意志の弱い私の出る幕ではない。
ブームに飛びつき購入した全国の人々も、今ごろどうなってることやら。

 

※本ページは月刊裏モノJAPAN2009年5月号に掲載された記事をWeb版に再編集したものです

 

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