ピックアップ
人身事故多発路線の駅員が見た 肉と血と骨(後編)
2015.10.11

SONY DSC

SONY DSC

【裏モノJAPANオンライン・担当者より】

当記事は2011年9月号に掲載された『人身事故多発路線の駅員が見た 肉と血と骨』の(後編)です。
何となく見聞きはしても、滅多に表に出ることはない人身事故の現に、幾度も遭遇した駅員さんへ取材することにより文字上で再現させていただきました。
その数、実に20回――。一体、どんな現場だというのでしょうか。
今回は後編をお送りいたします(前編はコチラ)。

 

【本文続き】

「モハ」のモーターで右半身が溶けていた

人身事故には被害者が生存しているケースも少なくない。
例えば、入社から半年ほどたったある日の夜、同僚2人とかけつけた踏切事故がそうだった。
現場では電車が緊急停止していて、その下にスカート姿の女性が倒れ込んでいた。
車輪に巻き込まれたのだろうか。
声をかけてもぴくりとも動かない。
救急隊の隊員が指示を出した。
「とりあえず引っ張りだしましょうか」「はい」
女性の腕を持ち、ぐいつと外へ。
見ると、両手加本の指がすべて切断され、骨がむき出しになっていた。
手の平の上を車輪が通ったのだろうか。
そのとき、意識の戻った女性が突然、〃骨の手″で私の右手をむんずと掴み、
絶叫しながらのたうち回り始めた。
「痛い!痛い!アッイ!」
電車に蝶かれると、患部に強烈な熱さを感じると、駅員の誰かに聞いたことがある.
女性の骨が腕の肉にぐいぐいと食い込んでくる。
「離してください!大丈夫ですから!大丈夫ですから!」「アシい〜!痛い〜!アシい〜!」
なんとか2人がかりで女性を引き離し、救急車へ搬送(両足も切断されていた)したが、私
の腕には2週間以上も女性の手型(骨型?)が残ることとなった。
もう1人、生存したケースを紹介しよう。
その日、ホーム作業中だった私は、電車が入ってくる間際に、スーツ姿の若い女性が線路へ転
落するのを目撃した。
非常用のLEDのライトを振り、慌てて車両を緊急停止させる。
幸いにも、彼女は線路の真ん中、つまり左右両車輪の間に倒れて
いた。
「大丈夫か!」しかし、彼女からの返答はない。
気絶しているのか。何かが焦げるようなような匂
いが漂ってきた。耳を済ませばジリジリと音も聞こえる。まさ
か……。
あわてて車両中央のプレートを確認したところ「モハ」の文
字が。モハ。車両下にモーターを搭載しているという意味だ。
電車のモーターは、強烈な熱を持つ。鉄板焼きの鉄板よりもっと熱い。
彼女はまさにその下に倒れているのだ。ヤバイ1体を引きずりだすと、顔と上
半身の右側部分が溶けていた。命に別状はなかったが、彼女の後の人生を思えば暗たんたる気
分だ。

白線の内側は巻き込まれる

夏の夕暮れどき。たまたま駅近くで人気バンドのライブがあり、ホームは足の踏み場もないほどのすし詰め状態だった。
「白線の後ろに下がってください!」と何度アナウンスを繰り返しても、群衆の勢いは止まらない。
被害者となったその中年女性もやはり堂々と白線を越えていた。
みなさんも知っておいてほしい。
なぜ我々駅員がくどいほど「白線の内側に」と連呼するのか。
外側にいたところで物理的に接触しようがないはずと誤解しているかもしれないから。
猛スピードの電車は、巻き込むのだ。
中年女性は、ホームへ入ってきた通過電車になにかの拍子で吸い寄せられた。
車両とホームの間、わずか釦センチ程度の隙間に足を挟まれ、体がコマのようにくるくる回る。
周囲は阿鼻叫喚だ。遺体となった中年女性は、壊れた操り人形のように、両手両足の方向がぐねぐねに曲がっていた。
無残な遺体といえば、事故が起きたことに運転士が気づかなかったケースに一度遭遇したことがある。
人間を巻き込んだまま、電車が走りつづけたのだ。
後続の電車が、線路に白いものが見えたと指令所へ連絡し、先方の当該車両が私の駅に緊急停止した。
ヒドイありさまだった。
ブレーキパッドと車輪の間、皿センチ程度の隙間に、肉片がぎっしり詰まっていたのである。
除去作業は大変だ。
まず乗客を降ろして車両の重量を軽くし、特殊ジャッキを使ってパッドと車輪の間の圧を軽減する。
続けて、バールを車輪とパッドの間に差し込み、肉片をほじくりだす。
「あ〜あ、ひでえな」指の欠片から、髪の毛のついた頭の肉、眼球まで、出るわ出るわ。
作業はまだ終わらない。電車が走行中にも肉片があちこちに散ったはずなので、それをすべて拾い集めなければいけないのだ。
深夜から早朝まで探し回ったが、腕の一部だけはどうしても見つからなかった。
カラスにでも持っていかれたのだろう

どっちがどの肉片を引き取るのか

平日の昼間、踏切事故に駆り出された。
イマドキ珍しい心中らしく、現場には男女2人の遺体があった。
お互いが離れないように、男性の右手と女性の左手が縄のようなもので結ばれている。
あの世でもつながっていたいということか。
ただ、衝突時の衝撃によって2人の遺体はバラバラで、肉片を探すのが一苦労である。
「これ、どっちの手なんだよ」「毛が薄いから女のなんじゃないの?」「だね。んじゃこの指は?」「マニキュアしてないし、男じゃねえか」
それでも性別不明な肉片があり、やむなく、ごちやまぜのまま救急隊に渡すしかなかった。
この暖昧な判断も、2人ともに亡くなっていたからこそで、もし片方が生存していれば作業はより困難となる。
手術すればくっつくかもしれない当人の部位を、必死で選別しなければならないからだ。
この心中事故には後日談がある。
警察からこのカップルの情報を聞いてきた駅員が言う。
「事故のあと、両家の遺族の間で問題があったらしいよ」「どういうこと?」「肉片がごちやまぜだったろ。どっちがどれを引き取るのかって」2人は不倫の関係だった。
遺族にすれば、家族の遺体はボロボロでも引き取りたいが、不倫相手の肉片などほしくない。
「まあ一応、分けたらしいんだが、葬式のときも大変だったみたいだね。不倫相手の骨が家の墓に入るなんてイヤだって」あれだけの肉片を逐一DNA鑑定などできるはずもない。
おそらくどっちの墓にも少しづつ互いの骨が入ったのだろう。
2人にしてみたら本望かもしれない。

最後に、巷でささやかれている『自殺や事故で電車を止めると、鉄道会社から遺族に多額の請求がくる』という噂について触れておきたい。
JRだと、この件を扱うのは法務課という部署だ。
事故によって起きた損失(遅延による振り替え輸送費など)を算定し、遺族に請求すると言われている。
仮に山の手線を釦分止めれば、金額は2,3億にも上るとも。
しかし本当に請求してるかどうかとなるとそのへんは不明だ。
我々駅員にも教えられないし、遺族とのゴタゴタも聞いたことはない。
請求されるのは、おそらく相当に悪質なケース(故意の事故など)だけなのではないだろうか。
一駅員には断定できないが。

(構成/編集部)

最新刊
  • 雑誌オンライン
  • フジサンマガジン
  • ガチスタプラス