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人身事故多発路線の駅員が見た 肉と血と骨(前編)
2015.10.10

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【裏モノJAPANオンライン・担当者より】

当記事は『裏モノJAPAN』2011年9月号に掲載された『人身事故多発路線の駅員が見た 肉と血と骨』です。
何となく見聞きはしても、滅多に表に出ることはない人身事故の現場に、幾度も遭遇した駅員さんへ取材することにより文字上で再現させていただきました。
その数、実に20回超――。

一体、どんな現場なのか。
前編、後編に渡ってお送りいたします。 

 

 【本文】

たとえば東京の中央線、朝の通勤時間帯。
駅ホームではしばしばこんなアナウンスが流れる。
「人身事故が発生したため遅れが出ております」自殺か事故か。
ともかく他人事にすぎない我々にすれば「ちっ、またかよ」と舌打ちする程度の出来事にすぎない。
しかし現場の人間はもちろん違う。
小田原みのる(仮名、卯代)氏は、過去、日本でも有数の人身事故多発駅に3年間勤務した駅
員だ。
3年間で遭遇した人身事故は釦回超。
一般の駅ではとても考えられない頻度だ。
彼の体験に耳を傾けながら、知られざる人身事故現場の世界を覗いてみよう。(編集部)

処理はどちらの駅が?ウチか、あっちか

鉄オタの私が都内のJR駅で駅員として働き始めたのは今から5年前のこと。
新卒ではなく中途採用だった.駅員の仕事は皆さんの想像以上に大変だ。
改札から事務所作業、ホームの指さし確認、列車の入線時の構内アナウンス、遅延の対処、キセルの摘発などなど。
酔客にカラまれてブン殴られるなんてのも日常茶飯事だ。
しかし公共の交通機関に勤める以上、その程度は受け入れるしかない。
それよりもやはり堪えるのは、人身事故である。
配属から1週間。
午前中、事務所に詰めていたら、流しっぱなしの鉄道無線機から突然、指令所からの音声が流れてきた。
「●●●付近で人身事故発生』人身事故が起きた場合、まずは発見した鉄道員(主に運転士、駅員、踏切所の人間)から、田端の司令所へと鉄道無線で連絡が入る。
続けて、この指令所が状況や場所を確認し、最も発生ポイントから近い駅へと無線で連絡する。
これを受けた駅の駅員が現場へ急行する流れだ。
事務所は騒然となった。●●●はウチと隣駅のちょうど中間あたり。
処理はどちらが当たるのか。
ウチか、あっちか。
みな気が気じゃない。
指令所から第二報が入る。
「▲▲踏切です。××駅が向かってください。どうぞ」ウチだ!通常業務もあるから全員が全員、現場へ行くわけじゃないが、駆り出されるのはO助役が顔色を変えて現われ、メンバー3人を発表した。
私の名前も入っていた。
「急いで行くぞ」
防護服に身をつつみ、道具の入ったカバンを持ち、外へと飛び出して自転車にまたがる(遠い場合はタクシーを使うことも)。
I線路脇の道をひた走ること数分、到着した踏切では、Ⅲ両編成の電車が停止し、シーンと静まりかえっていた。
周囲には燃えた鉄の匂いが漂っている。緊急停止した際、車輪とレールがこすれ、火花をあ
げるからだ。
間もなく、警察と消防隊が到着し、野次馬たちもどこからともなく集まりだした。

軍手越しにぐにやっとした感触が

現場では、消防隊が救急の仕事を請け負い、警察が現場検証を行い、原因を特定(大半は自
殺か事故ながら、他殺ということも考えられる)する。
我々駅員は両者のサポートという位置づけだ。
「では、探しましょうか」探すとは、被害者をだ。
消防隊の指示に従い、周辺の電車の下をくまなく見て回る。
いた!電車の下から足が見えている。ズボンだから男性のようだ。
顔の方は奥のほうに向いてるため、暗くてまったく見えない。
声をかけてもぴくりとも動かないところからして、息絶えているに違いない。
空気の生臭いこと生臭いこと。
噸まるで獣のような強烈な臭気だ。
「引きずりだしましょう。手伝ってください」
「は、はい!」
救急隊が右足を持ち、私が左足を持つ。男性の体に傷がつか
ぬよう、慎重かつゆっくりとズルリ。
な、なんじやこりゃ

腰から上がなかった。輪切りの胴体から白っぽい内臓がぷらぷら垂れ下がっている。
ぐるぐる巻いているのは腸だろう。
すでにあまり血は出てないが、それでもポタポタと足下に血だまりをつくっていく。
電車の中から、乗客がこちらを見ている。吐き気がするがここは我慢だ。
醜態を見せるわけにはいかない。
救急隊員は慣れたもので、涼しい顔をしている。助役や同僚も同じだ。
遺体にピニールシートをかぶせ、ヤジ馬に見えないように救急車へ搬送したところで、助役が指示を出す。
「肉片を回収しよう」現場周辺にはばらばらになった肉片がおちており、一つ一つ手で拾いあげて、かき集めねばならない。
ちぎれた指があればおそるおそるつまんで大きなビニール袋にぽい。
赤い肉のかたまりも、ビニールにぽい。軍手をはめていても手にはぐにやっとした感触が残る。
1時間ほどですべての作業を終えた私たちは駅に戻り、体に塩を振りかけて、パイプ椅子に倒れ込んだ。

迫り来る電車の恐怖に脅えたままの表情で

ある夜、ホーム作業をしていたところ、また人身事故があった。
無線の報告によれば、現場は駅から500メートルほど離れた踏切だ。
慌てて同僚3人と現場へと急行した。
現場では、うつぶせの状態で人が倒れていた。
白っぽい上っ張りは飲食店関係のようだ。
男性だろう。
「比較的キレイなマグロですね」マグロとは原型を留めた遺体
のことである。
鉄道マンの間で古くから使われる俗語だ。
ちなみに、バラバラになった遺体は「ミンチ」「タタキ』と呼ぶ。
「そうだな。五体満足なんて珍しいな」「事故ですかね、自殺ですかね」「どうかな」マグロに近づき、ひょいと顔を覗く。
その途端、私は腰を抜かした。
まるで理科の人体標本のように、顔の半分だけがキレイにえぐれていたのである。
原型を留めたほうの表情は、目をカツと見開き、口を大きく広げ、頬が引きつっている。
後日、警察から話を聞いたところ、事故の状況が明らかになった。
「目撃者は男性の後ろに立ってたんですがね。最初から様子がおかしかったみたいですわ」
男性は急いでいるのか、落ち着かない様子で時計を見ていた。
踏切は降りていたが、今にも中に入りそうな勢いだったという。
「で、本当に中に入ったところに、電車が来て、衝突したみたいなんですわ」
自殺ではなく、まず事故死である。
だとすれば、迫り来る電車の恐怖は相当なものだったに違いない。
あの表情がその証拠だ。

後編へ続く(コチラから

(構成/編集部)

 

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